スメラギ
3
にこにことマイペースに御門との会話を終えた鈴は、一度パタンと小さくドアを閉めてキッチンへ戻って行く。
「もうちょっとだけ、待っててねー」
既にこの部屋は、鈴のペースで動いている。彼がそう言うならそうするしかなく、雅弥と愛紗はカップを持ったまま頷いた。
暫しそれぞれコーヒーと紅茶を楽しんでいると、赤い毛先を僅かに跳ねさせた御門が部屋から出てくる。
「はよ、あー、来てたのかお前ら」
「朝ごはんなら出来てるらしいからね、他に選択肢もないみたいだったから」
「雅弥の分もあったのか」
「なんか作って貰えたよ」
「へー…」
のんびりとコーヒーを楽しむ雅弥を、やや寝惚け眼で見返す。
御門は朝が苦手な方ではないが、流石にこの独特のペースに着いて行ける程は目が醒めてはいないようだ。
そうこうしているうちに御門の分のコーヒーと自分の分らしい紅茶を持って戻ってきた鈴が、三人がついたテーブルに座る。
「えーっと、いただきます」
「「…いただきます…」」
小学校の給食のような音頭に、思わず続いてしまう。
何とも言えない気持ちで御門たちと顔を見合わせつつも、ほかほかと湯気をたてる朝食を口にした途端その空気は吹き飛んだ。
「美味い!」
「…本当に…」
「これも一から作ったヤツか?」
愛紗はこれまた純粋に、雅弥と御門は驚いたというように言った。
まずは紅茶に口をつけていた鈴は、そのままでベーグルをかじる愛紗にクリームチーズとジャムの瓶を差し出す。
察するに、これもおそらく自家製。
「……何、お前。嫁にでも行く気?」
数分前の雅弥と同じような事を言ったのは御門。
雅弥は同感だと心中で頷いたが、ポテトサラダを頬張る鈴はやや不満げだ。
「僕、男だよ?」
「見りゃ分かる。いや、分からねぇけど」
線の細い一際小さな躰と、とても同い年には見えない幼い顔立ち。
この学校の生徒として此処にいる以上は男なのだろうけど、多分先入観なしなら判断に迷う。特別女っぽいという訳ではないのだが、小さいので性別不明なのだ。
鈴がそんな意味まで察したのかは分からないが、彼はその言葉を聞いて微妙な顔をした。
「むぅ…」
「小さい子の性別って、分かりにくいっていうかどっちでもいいようなところあるからね」
「小さい子って、僕ら同い年だよね?」
続けた雅弥の言葉に、鈴は拗ねたように頬を膨らませた。そんな仕草が、余計幼さを際立たせるのだと気付いているのかいないのか。
おそらく、天然だろうけど。
お代わりを要求した雅弥のコーヒーカップを受け取りながら、鈴は調味料をあさった。
「…雅弥君、お塩入れてあげよっか?」
「……ブラックでお願いするよ」
案外、気は強いようだった。
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