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スメラギ
コーヒー? 紅茶?

……パタパタと、部屋の外で物音がする。

御門は寝惚けた意識でそれを認知し、夢見の中で首を傾げた。


(…こんな朝から、誰だ…?)


半ば睡眠中の思考は曖昧。だから御門はぼんやりとそう思った。

昨日まで、この部屋には同室者がいなかった。けれど、今朝からは?

御門の思考が答えに辿りつく前に、トントンッと、軽やかなノック音が耳に届く。


「…ん……?」
「おはよう、御門君。…わぁ、可愛いお部屋」


御門が重たい瞼を持ち上げたと同時、寝室のドアを開けて共用スペースから顔だけを覗かせたのは鈴。
彼は朝の挨拶を口にすると、パステルカラーに彩られた御門の部屋を見てのんびりとした口調で感想を漏らした。

ぼやけた視界でその姿を見とめた御門は、一拍置いてガバッと半身を起こす。


「……っ!?」
「コーヒー? 紅茶?」
「…は…?」


慌てて身構えた所とは、全く検討違いな場所に入れられた先制ジャブ。思わず御門は気の抜けた声で応じた。

朝も早いというのに、鈴は爽やかな笑顔だ。


「うん。御門君、朝はコーヒー? 紅茶?」
「……えーと、コーヒー……?」


質問の意図が脳に至るまで、多少の時間を要した。答えた声も間が抜けていた。

けれど鈴はにっこりと笑顔で頷き、一言残して顔を引っ込めた。


「わかった。朝ごはん、出来てるからねー」


パタン、軽い音をたててドアが閉まる。

御門は半身を起こした中途半端な姿勢のままそのドアを見つめ、やっと覚醒してきた頭で呟いた。


「…そいや、昨日色々と買い込んでたな…」


多少いつもと勝手は違ったようだが、爽やかな朝だ。



* * *



予想遥か斜め上に放たれる鈴の天然ジャブを喰らったのは、御門だけではなかった。


「おはよー、飯食いにいこうぜー、リン、御門……ぉ?」
「おはよう愛紗君、朝ご飯なら今作ってるよー」


420号室の玄関を開けて貰い漂ってきたのは、食欲をそそる芳ばしい匂い。

ルームメイトを後ろに連れて食事に誘いにきたつもりだった愛紗は、愛くるしい瞳をきょとんと見張らせた。


「あぁ、愛紗君お友達も一緒になんだね。じゃあ四人分作るから」
「え、ちょっとリン…!?」
「二人はコーヒーかな、紅茶かな?」


ふわふわとした雰囲気でありながら、相手を巻き込む事が前提とされたマイペース。

本来は愛紗もその気質なのだが、ほわほわとした鈴の笑顔は彼のそれを凌駕していた。


「えーっと…」
「コーヒー…かな、俺は」
「え、雅弥(まさや)?」


半ば思考停止に近い状態で固まっていた愛紗の後ろから、同じく戸惑ってはいながらもしっかりと自己主張をする声がした。

新名(にいな)雅弥。431号室の住人で、愛紗のルームメイト。さらりとした黒髪に銀のメッシュをいれた、シャープな銀縁の眼鏡の似合う爽やかな雰囲気の少年だ。


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あきゅろす。
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