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スメラギ
4

そうして改めて目の前の人を見上げれば、相手は本当に嘆息ものの美形だった。

小柄な鈴が見上げねば届かない、長身のバランスの良い体つき。漆黒の髪は黒曜石の様に輝いていて、同色の切長の瞳を長い睫毛が形よく縁取っている。厚すぎず薄すぎず最良な形を作った桜色の唇が、じっと自分を見つめる鈴に言葉を紡ぐ。


「…何だ?」
「え…っと、それで貴方は…?」


美しい彼の容姿に見惚れていたのも確かだが、そもそも自分に用があったのは彼なのではないだろうか。
向こうは自分が何者かをわかっているようだが、自分は彼が誰なのかさえ知らない。


「あぁ…、灯燈学園高等部生徒会長の瀧沢翡翠だ。お前を理事長室まで案内する」
「会長さん、ですか…」


鈴は彼を見上げながら、ぼんやりと思った。こんなに綺麗な会長さんなら、さぞかし人気があるのだろう、と。

…その考えは当たっていて、しかもその規模は鈴の想像を遥かに超えるものだというのは、今はまだ知るはずもない話だ。


「会長さん、じゃあこの子は?」
「それは俺の使い魔の……、っておい、止めておけ」


鈴は翡翠の傍らに立つ純白の天馬に興味を示した様で、そっとその毛並に触れようと手を伸ばす。翡翠は無表情にそれを制そうとした。

ペガサスという精獣は元来プライドが高く、あまり人間には懐かない。使い魔として契約するには相当な魔力と気質が必要だし、そもそも気に入らない人間には触れられる事さえ嫌がる。……筈だが。


「キミ可愛いねぇ…、毛並もツヤツヤで凄く綺麗。ねぇ、キミの名前は?」


翡翠が制そうとした手をすり抜けてリュートに近付いた鈴は、その背を撫でながら語りかけている。

元来のペガサスの気質なら蹴り飛ばされてもおかしくないのに、鈴はにこにこと嬉しそうにしているし、何よりリュートは嫌がっていない。寧ろ自分から鈴に擦り寄っている。


「……お前、何だ?」
「へ?」


二度目の問いに、鈴はリュートの首に腕を巻き付けたままきょとんと目を見張った。

翡翠からすれば、そんな状態すら信じがたい。


「ペガサスはプライドの高い精獣だ。入学試験が満点だったというお前ならわかっているだろう? 何故そうも平然とソイツに触れていられる?」
「何故…って…」


鈴は困ったように首を傾げた。つい、いつもの癖でやってしまったのだ。


「…んと、僕動物とか精獣とか大好きで…、同時に凄く好かれやすいんです。だから何に触るのも抵抗ないし、つい自分から寄っていっちゃって…」
「……ふぅん」


曖昧な話だが、動物に好かれやすい人間、というのは時折聞く。精獣にも好かれやすい、という人間は初耳だが。

翡翠は訝しげに鈴を見ていたが、やがて納得したか投げ出したか目線をそらした。


「まぁいい。本題だ、理事長室に案内する」
「あ、はい」
「何か長距離を移動する手段はあるか?」


校舎から正門までをリュートに乗って来た翡翠は、大きめな瞳を瞬かせた外部生を見た。


「会長さんは、この子に乗って来たんですよね?」
「あぁ」


翡翠が頷くと、鈴はペガサスと彼を交互に見やった。
少しの間迷うような仕草を見せ、けれどやがて翡翠を真っ直ぐに見上げる。


「あの、無躾なお願いかもしれないですけど……」
「?」
「一緒に……乗せて頂けませんか?」


……この子に。


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あきゅろす。
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