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スメラギ
3

* * *



目の前にはそびえ立つ正門。…守衛など人間の気配はなく、ましてや自ら開く雰囲気でもない。

暫くそれを見上げて考えるようなそぶりをしていた鈴だが、突然良い事思い付いた!、とでも言う様に手を叩いた。


「『開かぬなら、壊してしまおう、ホトトギス』!」


…如何にも楽しそうと言った口調で宣言する言葉ではない。というか、ホトトギスは全く関係がない。

けれど、そんなツッコミを入れてくれる人物は鈴の周囲にはいない。
満面の笑みで世にも物騒な宣言を出した鈴は、右手を門に向かって平行に掲げる。


「…大地を揺るがす封じられしもの──……」
「──何をしている!」


突然頭上から降ってきた声に、鈴は詠唱を止めた。

きょとんとした瞳で上方を見上げれば、真っ白なペガサスに乗った少年が此方へ向かって下りてくるところだった。


「えっと、待っててもなかなか門が開かなさそうだったから、ちょっと破ろうかなぁ…と」


戸惑いながらも“今何をしていたか”を答えれば、下りてきた少年は美しい顔を思いっきりしかめた。


「『破ろうかなぁ』?」
「…いっ、一回城門破りをやってみたくて…」


もしかしなくとも、怒っている。

相手は元の面立ちからして美形らしく、しかめた顔にも気品と迫力が宿る。
鈴は条件反射で縮こまりながらも、正直な言い訳にもならない理由を口にする。


「城門破り、ってここはそもそも城じゃないがな」
「えー…、でも大きさは充分じゃないですか…」


リュートから下りた翡翠は、悪戯の見付かった子供の様に慌てふためく小柄な少年を呆れ混じりに見下ろした。


(コイツが外部生か…? 確かに外見は普通そうには見えるが、中身は全然普通じゃなさそうだぞ……)


「開かなさそうだから、つい」「やってみたくて」、の理由でいきなり明日から通う予定の学校の正門を破壊呪文で破ろうとする少年だ。普通の感性では考えられない。

翡翠が観察半分興味半分で見ている瞳が睨んでいるように見える鈴は、あわあわとしながら傍らでパタパタと飛んでいたデューイを抱き締める。


「あっ、あの…すみません…。もう破ってみようなんて考えませんから…」
「……あぁ、まぁ未遂だからな、俺しか見ていないし、大丈夫だろう。……ところで、お前が外部生だな?」


おろおろと挙動不審に自分を見上げる瞳が小動物のように思えた翡翠は、その発想の異常さは責めずに不問にしてやる。
鈴は翡翠に怒られなかった事にホッと胸を撫で下ろすと、だっこしたデューイを抱え直して首を傾げた。


「…えっと…?」
「永峰鈴、だろう? 付属からの持ち上がり組じゃない、って意味だ」
「あぁ、はい。そうです」


名前を呼ばれ、鈴はこくこくと頷く。


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あきゅろす。
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