スメラギ
2
「僕も、球技大会はバスケットなんだ」
「は?」
突然の言葉に、軽く目を見張る。何故御門の担当種目を知っているのかとも思ったが、おそらく鈴あたりに聞いたのだろう。
けれど、不意にそんな宣言をした孝雪の意図が分からずに、御門は不審げに相手を見上げる。
「…それが、何だって言うんだよ」
「おんなじだね、って言うんだけど」
御門の口調に合わせて嘯くように言いながら、孝雪はくすくすと笑い声を漏らした。
妖しげな響きを含むその笑いに、御門は思わず半歩その場から後退る。
引きつった表情で気持ち引いた御門を追いかけるように、孝雪が同じ分だけ距離を詰めた。
「同じ種目なら、直接対決が出来る。楽しみだね」
「……っ、別に、楽しみじゃねえよ」
愉しげに笑う孝雪の表情に碌な事を考えている気がしなくて、御門は憮然と首を振った。
スッと伸ばされた孝雪の手が、ふと御門の顎を捕らえる。くいと持ち上げられて相手の側へと引き寄せられ、御門はギクリと躰を震わせた。
「な…っ」
「相変わらず、可愛くない事を言う可愛い口だね」
「……」
可愛くない事を言う、よりもその後口にされた『可愛い口』という言葉に顔をしかめる。
自分が可愛い筈がない。客観的に見てもそれは事実だ。だからこそからかうような口調でそう口にする孝雪には、背筋にムズ痒いものを覚えて堪らなかった。
御門が不快がってしかめ面をしているのを分かっていて、孝雪はスリーズの唇を歪めニヤリと笑う。
「照れてる?」
「……寒気がしてる」
「風邪? 最近は結構暑くなってきたから…、夏風邪かな?」
クスッと笑うその声の副音声として、「夏風邪は馬鹿が引く」なんて言葉が聞こえてきそうだ。
寒気がするのは、そのお寒い台詞のお陰だ。
「ねぇ御門、せっかく同じ種目なんだし、勝負しようよ」
「……、同じ種目だからって、必ずしも当たるとは限らないだろ」
「勝ち続けらればいつかは当たるでしょ。それとも、御門はすぐに負ける気なの?」
それなら僕の不戦勝だな、なんてせせら笑う。
そんな言い方をされるとそこまで勝負に熱くなるタイプではない御門でも、多少は自尊心が刺激される。早々に負けるつもりなんて、ない。
「負ける気なんてねえよ」
「なら何も問題ない。直接対決があったのならその勝敗で、どちらか負けた方が勝った方の言う事を聞く。直接当たる前にどちらかが負けたのなら、その時点で負けた方の負け。簡単な勝負でしょ?」
「……、俺が勝ったら、アンタが俺の言う事を聞いてくれるって?」
御門が思わず笑いながら訊き返すと、孝雪は口の端に笑みを浮かべたまま頷く。
「勿論。御門が勝ったら、ね?」
そんな事がある筈がない、と自信に満ち溢れた声。その言い方に思わず、闘争心に火が点いた。
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