スメラギ
5
「古山(こやま)君は、今ボールをキャッチしようとしたね。…残念ながら取り落としちゃったけど、咄嗟に取ろうとする姿勢がとれるなら、練習すればちゃんとボールを取れるようになる筈だよ」
「…でも、俺、実際ボール取れた事なんてないし…」
ころころと転がっていく取り落としたボールに、古山の視線は揺れる。
戸惑ったように揺らぐ視線をしっかりと捕まえて、鈴の飴色の瞳はしっかりと古山を見据えた。
「みんなは『運動が出来ない。苦手だ』っていう言葉に全て身を任せて、諦めてしまってるけど。それぞれの長所を伸ばせれば、やってやれない事はないと思うよ」
優勝だって、狙ってみせる。
きっぱりと言い切った鈴に、古山だけではなく、運動の苦手なチームメイト全員がぽかんとした。
「……ふはっ」
誰も何も言えずにいる中、おかしそうに吹き出したのは副主将の狭山で。
「くくっ。いやぁ、何かやってくれるだろうと思ってドッチボール選んだら……永峰お前、そんなナリで格好良すぎんだろ」
「……一言余計だなぁ」
おかしそうに、楽しそうに笑い出した狭山の一部失礼な褒め言葉に、鈴は苦笑いする。
ばしばしと肩を叩いてくる手を払いつつ、鈴は再びチームメイトを見渡した。
「避けたり、ボールを取ったり、ボールを投げたり。それぞれどれか一点に特化する、長所を伸ばすように練習して行こう。ね?」
「…う、うん」
「はいっ」
同意を求めるように言えば、戸惑っていた彼らもハッとしたように頷きを返す。
再びデューイが拾ってきたボールを手にすると、鈴はフッと笑ってそのまま数歩歩いた。
「――ッ!?」
そして不意に振り返って、狭山に向かってボールを勢い良く投げつける。
振り向きざまに投げた為狙いは甘いが古山に投げた時とは比べものにならない勢いのそれを、狭山は咄嗟に手のひらで弾き返してしまった。
三度転がっていくボールに、鈴がニヤリと笑う。
「ちゃんと取らなきゃ駄目じゃーん、副リーダー」
「……まさか俺の方にくるとは思ってなかった」
茶化すように笑う鈴に狭山はゆるりと首を振り、彼の使い魔がボールを回収しに行く前に自主的にボールを拾った。
チームメイトそれぞれに個別の練習メニューを言い渡している鈴を見て、狭山はかりかりと首を掻いた。
「…永峰君、狭山君の“そんなナリ”発言をちょっと気にしてるのかな?」
「……あ、やっぱり報復だったか」
ぽつりとした前原の呟きに、狭山は肩をすくめた。
円滑なチームワークの為にも、一言謝っておいた方が良さそうだ。
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