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スメラギ
3

「バスケ、だと何かあるんですか?」
「えっ、あぁ。…僕も、最初はバスケの予定だったから。この前、孝雪に頼まれて交代したからバレーになったんだけど」
「そうなんですか? それはちょっと、残念でしたね」


椿も残念だと思ったばかりだが、雅弥も同じ事を思ってくれたらしい。

それが何だか嬉しくて、椿は自然に、小さく微笑んだ。

雅弥がぱちりと瞳を瞬かせ、やがて同じように微笑みを返す。


「椿さんと勝負してみたかったのに」
「…そうだね。でも、僕は負けないよ」
「手強そうだからこそ、勝負のしがいがあるでしょう?」


クスリと笑う雅弥に、椿も強気に応える。柔らかな容姿に対して勝負事に熱くなるのも、負けず嫌いなのも、兄弟揃ってだ。


「来年……いや、秋の体育祭では、直接対決が出来るといいですね」
「そうだね。今回は、ウチのクラスとぶつかるまで雅弥くんの応援するから」


絶対、負けちゃ駄目だよ。囁いた椿に、雅弥は笑って頷いた。


「負けませんよ。貴方たちのクラスにもね」
「……うん、その意気」


もちろん、僕も、僕らのクラスも誰にも負けないけど。

そんな負けず嫌いな会話を交わしながら、椿は楽しげに表情を崩した。

自然に笑う椿に、雅弥もまた嬉しそうに笑う。


(……もし、この表情を独り占めに出来るんなら、嬉しいなぁ)


その無表情と美しさから、多くの人間から麗しい人形のようだ、と称される椿。弟の鈴の前ではよく表情を崩しているようだが、最近は雅弥の前でも時折笑顔を見せてくれるようになったと思う。

少しは、彼に近付けていると思ってもいいのだろうか。

そんな事を考えながら、雅弥は彼の笑顔に笑みを返した。


「負けませんよ、誰にも」


どんなライバルたちよりも、彼に近付けていると自惚れても良いだろうか。
その艶やかな蜂蜜色に手を伸ばしながら、雅弥はふっと唇を歪めた。

その優越感に浸って、慢心に浸るつもりはないけれど。


(……でもきっと、溺れてはいるんだ)


彼が、年上のこの可愛らしい人が、欲しい。

しっかりと自覚した想いを胸に、雅弥はとびきりの表情で椿に微笑みかけた。


「僕も、負けないよ」
「…はい」


頷きながら、雅弥はレンズの下で瞳を細める。


負ける気はない、この勝負。


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