スメラギ
8
一人訳の分かっていない椿が小首を傾げ、書類を脇に抱えながら生徒会室に居るメンバーを見渡す。
「球技大会の話? 鈴は何の種目に出るの?」
「僕はドッチボールに出るよー」
「へぇ……」
そういえば兄にはまだ報告していなかった。……というか、今日の帰りのHRに決まったばかりで、そう時間は経っていないのだが。
椿は飴色の瞳を細めて微かに笑い、片手で鈴の頭を撫でた。
「頑張ってね。クラスは違うけど、応援するから」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
鈴に触れる椿の手のひらは、ただ優しい。
やっぱり、翡翠の手のひらに触れるのとは違うなぁと思いつつ、兄に甘やかされるのは嬉しくてにこにこと機嫌良く微笑む。当たり前だが、心音は一定だ。
「お兄ちゃんは、たった今バレーボールに出る事になったんだよね」
「そうだね」
永峰兄弟はクスクスと笑い、意地悪く微笑んでいた孝雪に視線を向ける。二対の飴色の視線を受け、孝雪は肩をすくめた。
「変わってくれるんでしょ?」
「うん。…僕は別にバレーでも構わないよ」
「お兄ちゃん、バレーも得意なの?」
「どっちも特別得意な訳じゃないから、あんまり変わらないって感じかな」
ほんのりと苦笑いの表情を載せながら、椿は応える。
けれど、椿もなんだかんだ言って運動神経はいいのだ。きっといい活躍を見せてくれるに違いない。
「僕もお兄ちゃんの応援するからね」
「ありがとう、鈴」
「あ、でも優勝はウチのクラスがするよ」
「……じゃあ、僕らも負けないように頑張らないとね」
にこにこと笑って言う鈴に、椿も小さく笑って翡翠や孝雪に呼びかける。
孝雪はニヤリと笑い、翡翠もまた鈴を見て唇を吊り上げた。
「俺たちも、鈴たちのクラスに負けないようにしないとな」
「えへへ、お互い頑張りましょうね」
飴色の瞳は負けず嫌いで、言った翡翠もまた漆黒の双眸を微かに細める。直接対決はしないが、翡翠の方も闘争心に火が付いたらしい。
ティーポットから紅茶のおかわりを注いでいた孝雪も、愉しげに唇を歪ませ笑った。
「伊達に生徒会やってないって、鈴君や御門たちに見せてあげないと」
「御門くんに伝えておきますか?」
「いや、自分で宣戦布告するよ」
ニヤリと笑いながら言った孝雪に、何処かの苦労性の赤毛の少年がくしゃみをしたとかしないとか。
球技大会二週間前の放課後のこと。戦いの火蓋は、一部当事者の知らない所で切って落とされた。
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