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スメラギ
6

「…部屋まで案内したなら、俺の役割も終わりだな。鍵穴に指環をかざせば、部屋の鍵は開くから」
「あっ!」


ぽふぽふと鈴の頭を撫でて、翡翠はそう言った。鈴はハッとしたように顔を上げる。

頭の上に乗せられた翡翠の手はそのままに、がさごそと鞄をあさり出す。


「?」
「あっ、あのこれっ! 案内のお礼と、…お近づきのシルシです! …甘いもの、嫌いじゃなかったら…」


差し出されたのは、可愛らしい袋に入れられた色とりどりの焼き菓子。
如何にも手作りといった風のそれは、小さなマカロンだ。

翡翠は一瞬虚を突かれたように目を丸くしたが、すぐに柔らかく笑ってそれを受け取った。


「…ありがとう」
「いえ、此方こそありがとうございました」


マカロンを受け取った方とは反対の手でまた鈴の柔らかい髪を撫でれば、鈴はにっこりと笑った。

暫しその柔らかな手触りを楽しんでから、翡翠はそっと手を離す。


「じゃあ鈴、“またな”」
「はい、また!」


人気のない廊下へ踵を返した翡翠に向かって手を振れば、彼も優しく笑って振り返してくれた。

彼の姿が曲がり角へ消えるまで手を振っていた鈴は、ふわふわと嬉しそうに笑った。


「翡翠先輩、すっごく綺麗で優しい人だなぁ……」


作って来たマカロン、あんな素敵な人に食べて貰えて良かった。

知らず倖せそうに笑いながら、鈴は廊下の向こうを見つめた。



* * *



寮を出たところで、ポケットに入れておいた携帯電話が着信を伝えた。

掛けてくるのは大概生徒会の面子なので、相手を確認する事なく通話を押した。


「……もしもし?」
『翡翠っ、いくら理事長直々の仕事だからって遅すぎない? 仕事溜ってきたんだけど』


流れてきた声は、馴染んだ友人のものだ。なかなか帰って来ない翡翠に焦れて掛けてきたらしい。

入学式を前日に控えた今日、生徒会の仕事は山積みなのだ。


「孝雪か。もう帰るところだ、……紅茶でも淹れて待っていろ」
『はぁ? まぁ、帰ってくるんならいいけど…。あ、それから椿が至急の書類持ってきて待ってるから。急いでねー』


帰る旨を伝えれば、案外あっさりと孝雪は通話を切った。

翡翠は携帯をポケットにしまい、軽く笑う。


──……椿、か


友人の名を聞き、悪戯っぽく笑う表情が瞼裏に浮かんだ。


「…大丈夫、“内緒”にするさ」


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