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スメラギ
5

「会長様だ…」
「誰か一緒に…?」
「生徒会の方々じゃないよ」
「見掛けない顔…」
「…気易く会長様に近付いて…」


好奇と悪意で囁かれる声。漏れ聞こえた内容に翡翠は顔をしかめた。
鈴はといえば、我関せずの様子できょろきょろと辺りを見回している。


「翡翠先輩?」


鈴が不機嫌な翡翠を側に来てきょとんと見上げた。

二人の近い距離に、周囲のさざめきが大きくなる。


「周りが煩い、早く行くぞ」


翡翠は鈴を促し、ちょうど良く開いたエレベーターに足早に乗り込む。

トコトコと着いてきた鈴を見て、翡翠は軽く肩の力を抜いた。


「…悪いな」
「何がです?」
「陰口を叩かれた、俺のせいだ」
「? それがどうして翡翠先輩のせいなんです?」


灯燈の“常識”を知らない鈴は目を丸くしたが、翡翠は息をついて首を振った。


「この学園は色々と事情がある。……けれど悪い、俺はお前と“関わらない”という選択肢を持つつもりはない」


灯燈の内情について詳しくない鈴にとっては、意味不明の台詞だ。

鈴は首を傾げながらも、どことなく辛そうな表情をした翡翠に訊き返す。


「…? よく分からないですけど、先輩は僕とこれからも“関わる”って言いたいんですよね?」
「そうだ」
「何でわざわざそんな事言うんです? 僕だって翡翠先輩と“これっきり”になるようなつもりないですよ?」


彼が言う言葉の意味が、鈴には理解出来ない。
取り巻く事情も、含む感情もだ。

翡翠は緩く首を振る。


「鈴は、それでいい。俺も努力はするから」
「…?」


ポーンと軽い音がしてエレベーターが止まる。開いた扉の先が、四階だ。

入学前の一年生の階だという事もあり、そこは一階以上に人影がない。アンティークな雰囲気が漂う廊下を、鈴は翡翠に着いて歩く。


「長い廊下ですねぇ」
「建物が広いからな。420号室は此方か」


点在する扉の横に掲げられたプレートを見ながら、部屋番号を追って歩いて行く。廊下にしては高めな天井に、靴音が響いた。

ややして足を止めた翡翠の隣に、鈴もまた足を止める。420号室は、廊下の突き当たり。角部屋だ。


「…420号室、『浅倉御門(あさくら みかど)・永峰鈴』…」
「…同室は浅倉か…」


扉横のプレートを読み上げた鈴に、応えるように翡翠が呟く。


「翡翠先輩、知ってる人ですか?」
「今年度の新入生の中でもそれなりの有名人の一人だ。……吉と出るか凶と出るかは、多分お前次第だな」
「?」


小さく呟かれた翡翠の言葉に、鈴はやはり首を傾げるしかなかった。


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