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スメラギ
3

「一年の部屋は三階か四階だが…。鈴、ちょっと指環を見せてみろ」
「ふえ? あっ、はい」


一人で深い呼吸を繰り返していると、突然翡翠の綺麗な手が伸びてきて首元を掬った。

正確には首からかけられたシルバーのネックレスにかかった指環をだが、動悸を落ち着けようとしていた鈴には不意打ちな接近だ。


「番号は……420号室か。…鈴? どうした?」
「あっいや……、翡翠先輩…近い…」


長く遊ばせた鎖を指先で掬って指環に刻まれた部屋番号を読み取った翡翠だが、かなり距離が近い。
それに身長差の為に翡翠は腰を屈めていて、まるで鈴の顔を覗き込んでいるようだ。

翡翠は何気無いようにきょとんと目を見張ったが、頬を染めた鈴の表情を見て弾かれたようにパッと躰を離す。


「…いや…なんと言うか…、すまない」
「いえ…」


気まずそうに言った翡翠に、鈴は緩く首を振った。

別に、彼は何も悪くないと思う。…ただ、急に近くなったその綺麗な顔に、治まり始めた動悸がまた激しくなってしまったのは、事実だった。


「…………」
「…………」


黙ったままちらりと彼を見上げれば、気まずそうにでも真っ直ぐに此方を見下ろす彼と目が合った。

曇りのない黒曜石の輝き。それはただ、綺麗だった。


「……やっぱり、眩しい」
「は?」


微妙な空気を破る、小さな鈴の呟き。翡翠は不思議そうに訊き返したが、鈴は答える気にはならなかった。


「…部屋、420号室って言ってましたけ?」
「あ、あぁ」


唐突に訊かれ、翡翠はまだ気持ちを切り替えきれないながらも頷く。


「一年生は三階と四階。三年生は七階八階九階だから、二年生は五階六階ですか」
「あぁ」


翡翠は軽く目を見張りながらも、問われた内容に頷く。


「二年のフロアに何か用があるのか?」
「んー、お兄ちゃんに会いに行こうかと思ってたんですが…、お兄ちゃんも次席でミスリルだから十階なんですか?」


年子の兄、椿には実は自分が灯燈に入学する事を教えていない。

突然押し掛けて驚かせてみたいというのがその理由だが、立ち入りに許可がいるらしい“十階”ならばそれは難しいだろうか。


「椿の部屋は十階の1004号室だが、予め迎えでも頼んでおけば、自身に許可がなくても上がれるぞ?」
「うーん、それじゃあ意味ないんですもん」
「?」


翡翠が怪訝そうに形良い眉を寄せれば、鈴は悪戯な笑みを浮かべた。


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あきゅろす。
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