スメラギ
2
* * *
「……外部生の迎え?」
広大な敷地、広大な校舎の中でもここは一際広く大きな部屋。灯燈の多くの権限を任せられた、生徒会に与えられた部屋だ。
その豪華な生徒会室の中心、会長机に頬杖をかき座っていた黒髪の少年は、書類を捲りながら今日の仕事について説明していた副会長の箕島孝雪(みしま たかゆき)を見やった。
「うん、今日到着の予定だから迎えに行ってやれ、って理事長が直々に翡翠(ひすい)をご指名だよ」
「……何故俺が」
「さぁ? 会長だからじゃない?」
軽々しく答える孝雪に、生徒会長、瀧沢(たきざわ)翡翠は露骨に顔をしかめた。
「面倒臭い…、というか行きたくないな」
「相変わらずだね。…行きたくない、っていうよりはあんまり人に構いたくないんでしょ?」
ぼやく翡翠に言葉を返しながら、孝雪はファイルを読み上げる。
「『永峰鈴、Bクラスの《ウィザード》。本年度唯一にして、十年ぶりの外部生』。…高校以前は家庭学習だったらしいね、それ以前の学歴はデータにない。でも入学試験は満点で首席、かなり優秀だね」
「満点……」
「あれ、少しは興味持ってくれた? そうだよね、ウチの試験を満点なら、並外れた秀才って事だ」
孝雪は楽しげに喉を鳴らし、翡翠はちらりと彼を見上げた。
灯燈学園の学力は、エリートクラスである《ウィザード》を教育するだけあって、国内最高峰とも言って良い。その入学試験を、しかも外部入学で満点とあれば、それはある種異端とも言える頭脳だろう。
生徒会長を務めながら現二年生の首席でもある翡翠は、脱帽したように呟く。
「俺なんかとは比べ物にならなそうだな、それは」
「何言ってるの、翡翠だって充分過ぎる頭を持ってるじゃないか。
…でもまぁ、この外部生の子はどんな子なんだろうねホント」
ファイリングされた新入生の個人データを指で弾きながら、孝雪は窓の外を見やる。
そちらは正門の方向だが、校舎と正門はかなりの距離がある為その周囲の様子を伺い知る事は出来ない。
「写真見る限りでは、限りなく普通の子っぽいけどねぇ…」
パサリと机上に投げやられた資料を翡翠が目を落とせば、蜂蜜色の髪の小柄だがどこにでもいそうな少年が間延びした表情で写っている。
「…ま、それは翡翠が見に行って来れば分かるね。そういう訳で会長、お仕事よろしくお願いします」
ニコ、と孝雪は西洋的な甘い容姿を綻ばせて頭を下げた。嫌味混じりのポーズだ。
翡翠はため息をつきながら椅子から立ち上がり、生徒会室の窓を開けた。
「“リュート”で行くんだ?」
「あぁ、その方が早いからな」
「行ってらっしゃい」
呑気に手を振る孝雪を一瞥し、翡翠は暇を出していた使い魔に呼び掛ける。
「〈リュート〉」
契約名を詠う様に一言呟けば、窓の外には一匹の翼を持つ純白の馬。翡翠の使い魔である、ペガサスのリュートだ。
翡翠は窓から馴れた仕草でその背に飛び乗ると、現れた銀の手綱を取った。
「…正門へ」
白の蹄が空を蹴り、舞う様に空を滑り出して行った。
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