スメラギ
キラキラと、温かい
「寮って近いんですよね?」
「まぁ、正門よりはな」
来た道を戻りながら、鈴は翡翠の横を歩く。さりげなく歩調を合わせてくれているのが、何だか温かかった。
「歩くと此処から大体十分くらいか。来た時みたいにリュートに乗るか、それとも歩いて道を覚えるか?」
「理事棟から寮に直行するケースってどれくらいあると思います?」
「普通ならほとんどないな。…だが、お前は理事長の親戚だろう、時々呼ばれたりしないか?」
「あー、うーん、どうだろう……」
また遊びにおいで、と樹は言っていたか。
その頻度はどれくらいだろうと考え、鈴は首を捻った。
「んーと…、じゃあ歩きでいいですか?」
「わかった」
とりあえず、散歩ついでに歩いてみる事にしよう。
道を知っているのは翡翠だから、彼の半歩程後ろを歩く。
「……永峰、」
「はい? …あ、そういえば『鈴』でいいですよ、会長さん」
椿の友人だと言っていた翡翠の場合、『永峰』では兄と同じだから。
理事長室の時からこっそり引っ掛かっていた事を口に出す。
それに鈴は、自分の名前を結構気に入っているから。単純に呼んで欲しいとも、思った。
「……、あぁわかった。なら俺のことも『会長さん』は止めてくれ」
「ふえ?」
「『会長』は名前じゃないしな。…『翡翠』でいい、鈴」
お前なら。翡翠は口の中で最後の言葉を止めた。
自分のことは言ってみたが、相手から同じ要求が返ってくるとは思っていなかった鈴はきょとんと目を見張った。
パチパチと瞬きをし、言われた通りの呼び名を口に乗せる。
「翡翠…先輩?」
「あぁ、ならそれでいい」
首を傾げながらそう呼んだ鈴に、翡翠は目を細めて柔らかく微笑んだ。
その表情は、とても綺麗でキラキラと眩しい気がした。鈴は思わず足を止める。
「どうした?」
「んと、眩しい…?」
自分でもよくわかってはいない状況を答えると、翡翠は鈴に向いている三時の陽射しを遮る位置に移動してくれた。
気遣いに心がまた温かくなる。けれど、そうではなくて。
「…なんだか、キラキラしてました」
「?」
「なんだか…、ふふっ」
漠然とした言葉に翡翠は訝しげな顔をしたが、鈴はなんとなく笑みが込みあげてきて声を上げて笑った。
「キラキラ……な。まぁ、いいけどな」
ころころと鈴を転がすような声で笑う鈴に、翡翠は意味がわからないながらも和んでしまい表情を緩める。
逢ったばかりだというのに、この存在と居ると気持ちが安らぐ。堅くなに閉ざしていた心の中を、雪解けの様に融解していく。
温かい、陽光に触れたように。
「鈴、」
「はい?」
「俺は、温かいと思う」
「……?」
彼がキラキラと称したそれが何の事かは知らないが。
翡翠は、彼を温かいと思った。
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