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スメラギ
6

やや長めの鎖に光る、細身のミスリル。ある程度長さに余裕があるから、使う時にもそれほどの支障は出ないだろう。

少し困った様に眉を下げていた鈴だが、翡翠を見上げて表情を緩めた。


「えっと…あの、ありがとう……ございます」
「あぁ、構わない」


構わない。…それは、おそらく相手が鈴だからなのだろうけど。

翡翠は心中で深い息をつきながらも、何でもないように頷いた。


「まぁ、そのうちピッタリになるかもしれないしね」
「…元はと言えば、サイズ測らなかった伯父さんのせいだけどね」
「う……、うん、伯父さんも悪かったと思ってます……」


場をまとめるようにフォローを出した樹だったが、鈴にばっさりと斬られて撃沈した。


「…お前、案外手厳しいなな」
「まぁ、伯父さんですからね」


しょぼくれる樹を見て、翡翠は思わず呟く。紅茶を飲みながら、鈴は極めてすまして答えた。

樹は学園の内外では評判の良い理事長だが、“親戚の伯父さん”としての顔のヒエラルキーがどうやら結構低いらしい。


「……、そうだ、もうそろそろ時間なんだ。ごめんね鈴、私も仕事に戻らなきゃいけないんだ」
「あぁ、うん」


暫し甥に怒られてしょげていた樹だったが(いい歳して何をやっていると思っていたのは、鈴と翡翠だ)、ふとスイッチを切り替えた様に顔を上げた。


「半端になって悪いけれど、また遊びにおいで、鈴。瀧沢君、鈴のことをよろしく頼むね」
「うん、じゃあまたね伯父さん」
「案内ですか? 分かりました」


やや早口にそう言い、二人の返事を聞いたなら速足に行ってしまう。

思ったよりも結構、時間が厳しかったのかもしれない。

応接ソファーに取り残された翡翠と鈴は互いに顔を見合わせ、とりあえずカップに残った紅茶を飲み干す。


「これ、片付けた方が良いですよね?」
「そうだろうな。戸締まりとかは大丈夫なのか?」


そして、理事長室という特殊な場所の主の不在に戸惑う。

部屋については特に何も言わずに出ていってしまった樹だが、だからと言ってお茶を飲みっぱなしの状態で放置して行く訳にもいかないだろう。


「…僕、カップ片付けてきますね」
「手伝うか?」
「三人分だけなんで、大丈夫ですよ」


意外とてきぱきとした仕草でティーセットを片付け、部屋の奥の給湯スペースへ歩いて行く。

お茶を淹れる腕もなかなかのものだっから、見掛けによらず鈴は結構こういう作業は手慣れているのかもしれない。


「お待たせしました」


それから数分もしないうち、翡翠が他の場所へ目を配っている間に戻ってくる。


「大丈夫そうか?」
「まぁ、多分平気だと思います」
「そうか。…ならもう行くか?」
「はい」


短い会話を交わし、並んで理事長室を出た。


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あきゅろす。
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