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スメラギ
4

「……そういえば伯父さん、普通にお茶しちゃってるけど、何かあったんじゃないの?」


全員の皿からケーキが消えた頃、鈴がティーポットから二杯目のお茶を注ぎながら言った。

ティースプーンで紅茶をかき混ぜていた樹の動きが一瞬止まり、一拍置いてから大声が上がる。


「あぁ! そうだったね!」
「…忘れてたんだ…」


翡翠に紅茶を渡しながら、呆れ気味に呟く鈴。

先程からの様子を見るに、鈴は伯父に対しあまり容赦をしないらしい。


「そうそう、学園の説明をしなきゃと思ってたんだ。寮の事とか、指環の事とか」
「指環の説明なら会長さんに聞いたよ」


ね?、とでも言うように小首を傾げ見上げられ、翡翠は頷いた

この仕草もやる人間によっては媚ている様にも見えるが、鈴の場合は幼い面立ちもあってか純粋に可愛らしく映る。


「流石瀧沢君だねー、じゃあ寮とかの説明だけでいいか。寮は校舎から5分くらいの場所にあるんだけど、建物自体がかなり広いから、迷わないように気を付けてね」


身内だからと軽ーい調子で説明する樹に、比較的真面目な翡翠はそんなんでいいのかと思ったが、当の鈴の着眼点は別の所だった。


「…広い…、今度こそお城?」


あくまでお城にこだわる鈴に、翡翠は心中だけでがくっとのめった。本人は真剣そうだから、余計にアレだ。

一方前からのくだりを知らない樹は普通に説明を続ける。


「そうだね、イメージはお城かな。ヨーロッパの古城ホテルみたいな感じ?」
「かなり広いの?」
「広いね。高等部の全校生徒収容だし、十階建てだし。地下もあるんだよ」
「へぇ…」
「鈴はこれからそのお城に住む訳だね」
「すごーい!」


マイペースだ。そして果てしなく緩い。

放っておくといくらでも横道に逸れて行きそうな二人に、翡翠はため息をつきながら口を挟む。


「寮の部屋は一年生は全員が二人部屋、二年生はミスリルクラス以上だけが個室、三年生は全員が個室だ。
寮の住居スペースは三階から十階、一、二階と地下は購買や遊技場、談話室や大浴場など公共の施設になっている」
「おぉ、流石瀧沢君、簡潔で完璧な説明だねー」


長い内容を聞き取り易い適度な速さで言った翡翠に、樹がぱちぱちと拍手をした。鈴もつられた様に拍手している。

翡翠はアンタが緩いだけだと思ったが、堪えた。相手は一応この学園の理事長だ。

この数十分でイメージが崩落しつつある樹の事は無視し、翡翠は鈴に向き直る。


「寮の事で何かわからない事は?」
「んと、購買ってどんな物が売ってるんですか?」


流石に学年首席だけあって、物事の呑み込みは良い様だ。翡翠の説明を理解した上で、自分の気になった所を訊いてくる。


「購買、とは言うが規模は大きめなスーパーだ。日用品や衣類、食料品から、本や雑貨、後は授業で使う<魔法具>なども売っているな。大概の物は此処で揃うと思うが、万一欲しいと思う物がない場合は指環を使って発注も出来る。
…あぁ、指環には財布代わりという役割もあるから、無くさないよう気を付けろよ」
「なるほど…、ありがとうございます」


少々長い説明も、こくこくと納得したように首を振った。

翡翠は物分かりの良い鈴に安心して、二杯目の紅茶を口に含んだ。


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