スメラギ
3
「…椿に弟がいたんですね」
「話を聞いた事はなかったのかい?」
「……そうですね、初耳です」
二年生学年次席で風紀委員長を務める永峰椿とは初等部からのクラスメイトであり、生徒会長と風紀委員長として、また“同僚”としてともそれなりの付き合いがあるが、親兄弟についての話題は二人の間で出た事はなかった。
だから、外部生の永峰鈴が彼の弟であるといった事を知り、多少なりとも驚いている。
「見た目はあまり似ていないだろう?」
「まぁ、顔立ちや性格などはあまり似ていなさそうですが」
初等部からの付き合いのある、数少ない“友人”の枠に収められる者と、先程会ったばかりの、不思議な想いを感じさせる存在を思い出す。
「髪と瞳の色は、全く同じですね」
「……? 何の話ですか?」
シルバーのお盆にアンティークのティーポットとティーカップ、そして苺のショートケーキを乗せ、鈴が戻ってきた所だった。
翡翠は彼を振り向き、もう一度同じ事を繰り返す。
「お前と椿、髪と瞳が同じ色なんだな」
「…ぁ、ありがとうございます」
一瞬きょとんと目を見張った鈴だが、与えられた言葉を理解すると屈託無く笑った。
「いつも全然似てないって言われるんですけど…、一緒な所を言って貰えると凄く嬉しいです」
ふわふわとはにかむ表情もやはり、兄である椿とは似ていないのだけど。
そんな事は関係無く、翡翠はそんな鈴が可愛いと感じた。
「…ぁ、紅茶セイロンにしましたけど大丈夫ですか?」
「あぁ、美味そうだな」
ふわりと立ち上った香りと鈴の微笑みに、翡翠も微かな笑みを浮かべて返す。
「かなりいいお茶っ葉みたいです。…うん、やっぱり自分で淹れてきて良かったです」
「どういう意味だい、鈴ー」
「うん、そのままの意味」
紅茶をそれぞれのカップに注ぎながら、樹の軽口に冗談混じりに返す。
そんなやりとりに、翡翠はまた口元を綻ばせた。
「……いい顔をしているね、瀧沢君」
「え?」
「そんなにいい笑顔が出来たんだね、初めて見たよ」
にこにこと笑っている樹に、翡翠は暫し言葉を失う。
確かに自分は今、久しくない穏やかな気持ちで笑んではいるけれど。
とっさに隣の鈴を見下ろすが、鈴は膝の上のデューイにケーキを食べさせていたらしく、会話は聞いていなかったようだ。
「え? なぁに苺も食べたいの? しょうがないなぁ、じゃあ半分こだよ」
くすくすと笑いながら使い魔と戯れる無邪気な子供。
その存在は、自分にとって特別な意味があるのだろうか。
翡翠はそんな鈴と自分の手元を見比べながら、香りの良い紅茶を飲み干した。
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