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スメラギ
3

* * *



ぼすっ、とかなり乱暴に床に落とされ、鈴は狸寝入りのまま内心で顔をしかめた。優しくしてもらえるとは思っていないが、もう少し寝かせておかなくていいのか。

…すぐに相応のお返しをしてあげたいのは山々だが、まずは周囲の状況を把握しておくのが先だ。そのまま寝た振りを続ける。


(…とりあえず…、此処は室内かな。埃臭いし、空き教室とか倉庫とか、そっち系の)


目を閉じたまま周囲の匂いや音などを探り、そう辺りをつける。
ちなみに此処へ連れて来られる途中で、手足を縛られている。感触からして、工事現場に張られているようなロープでだろう。

次に探るのは、人間の気配。


(…最初、僕を此処に連れてきたの二人の他に、部屋の奥にざっと五人くらい居るか。どっちかっていうと、武力行使要員かな? 控えてるのは、全員《Bクラス》だ)


ふむ、と鈴は彼らの気配からそんな事までを察し、内心で独りごつ。

…そして、転がされた床、自分の真下にある魔法の気配に意識を向ける。


(…<魔封じ>の<魔法陣>ねぇ…。随分上等な魔法を試みてるなぁ)


<魔法陣>というものは、口語の<呪文>に比べると大分複雑な魔術系統だ。

僅かのスペルミスなどが失敗に繋がるし、それを扱える人間など《ウィザード》であっても稀だ。

それを彼らは分かっているのか、いないのか。鈴は内心で嘆息した。


(…綻びだらけ。あんまりに拙過ぎる)


ざっと気配を探るだけで、十個近くの綻びがあるだろうか。正直、何処からだって破れる。

…まぁ、『<魔封じ>をしてある』と言う事にで相手に抵抗の意思を持たせない事にする作戦なのかもしれないが。どちらにせよ、鈴にとってはあまりに幼稚にしか映らない手法だ。

予想以上の相手の貧弱さに思わず呆れの息を吐けば、男にしては甲高く高飛車な声が部屋の奥に叫ぶ。


「…じゃあ、僕らは一旦行くから、しっかりコイツ痛めつけておいてよね!」
「二度と会長様に顔向け出来ないように、グチャグチャにしちゃって!」

(……って、出てっちゃう訳!?)


話があるとか、そういうのはないのか!

思わず鈴はツッコミかけたが、本当に二つの気配は出て行ってしまう。…何というか、想定していた状況と若干違う。


(罵詈雑言浴びせるとか、そういうのが先じゃないの? いきなり実力行使なの?)


えー、と未だ狸寝入りをしながら思う鈴。

が、残された五人の下品な笑い声に、また神経を張った。


「…だってさ、どうするよぉ?」
「ボコボコにすんのも、壊れるまでヤっちゃうのも、俺らの自由なんだろ?」
「えー、こんなちんちくりんに勃つかぁ?」
「あ、俺は割とこういうちっちゃいの好きー」

(……ちっちゃくて悪かったな)


ゲラゲラと笑う彼らに、真っ先に思ったのがそれだ。

同世代が成長期真っ只中な中、一人一年以上身長が伸びない少年のコンプレックスを刺激する言葉に、鈴は静かに決意する。


(……手加減しない。全員沈めてやる)


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あきゅろす。
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