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スメラギ
売られた喧嘩は買いましょう

* * *



嫌がらせ開始から一週間。鈴が魔法で時間を“固定”してしまった下駄箱と机に悪戯はされていないし(出来ないのだ)、時折飛んでくる攻撃魔法も、鈴は必ず軽く防ぐかかわしている。

つまるところ、鈴の周囲に実害はほとんど無いと言っていい。

昼休み、外でお弁当を食べようと友人たちと廊下を移動しながら、鈴は歌うように呟いた。


「…さてさて、そろそろ痺れを切らす頃合なのかな?」
「何がだ?」


隣を歩く御門が、その言葉を拾って訊き返す。

鈴は調子を変えずに歩きながら、微かに声を落として答える。


「…後方30m、殺気垂れ流しで付いて来てる二人組の顔を見て、誰だか分かる?」
「は…!? …むぐっ」


鈴の言葉に思わず叫びかけた愛紗の口は、一番反応が速かった雅弥がさり気なく塞いだ。…此方が気付いているのだという事を気取られてはいけない。

自然体を装いつつ後ろを見た御門が、鈴が言う二人組の姿を確認して囁く。


「…会長親衛隊の隊長と副隊長だ」
「ちなみにクラスは二人とも3-A」
「…ふぅん」


補足説明をした雅弥の言葉と共に、頷く。だろうとは思ったが、やはりそうらしい。


「尻尾どころか、頭が直々に出て来てくれた訳かぁ」


簡単でいいな、と鈴は軽く笑う。

雅弥の手を外した愛紗は、しかし笑ってはいられないのか顔をしかめた。


「…どーすんだよ、リン。ぶっ飛ばすのか?」
「…多分、今は仕掛けて来ないし、外までは付いて来ないと思う。みんながいるしね」


友人たち三人が一緒にいる時に直接攻撃が仕掛けられた事は、この一週間のうち一度も無い。彼ら三人が、一年生の中でも屈指の有名勢だからだろう。

灯燈では容姿の良い人物はアイドル扱いになるというのは、既に鈴も認識していた。

…おそらく、仕掛けてくるのならば放課後、自分が一人になった瞬間。そう予測出来たが、三人には言わず鈴は口を閉ざす。


「放っておくつもりか?」
「向こうが行動を起こすまでは、ね。僕、売られた喧嘩は買うけど自分からは売らない派だから」
「……、何というかさ…ホントに余裕だよね、鈴は…」


軽く笑って言った鈴に、雅弥が脱力したように言う。彼の態度を見ていると、気を詰めているのが馬鹿らしく感じる。


「…まぁでも、油断は大敵、一応気を配ってはいるから。今は大丈夫だから、みんなでご飯食べよ?」


今日のご飯はお稲荷さんだよー、と言う鈴に、三人は揃って肩をすくめた。


「…ま、腹は減っては戦は出来ぬ、とも言うしね」
「リンのメシなら、ウマいから百人力出そうだな」
「…とりあえずは腹ごしらえするか」


校舎を出る瞬間振り返ってみたが、鈴の予想通り、二人組の姿は消えていた。


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あきゅろす。
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