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スメラギ
7

「…でも鈴、」
「無茶はしないから。大丈夫」


言いかけた椿を遮るよう、首を振る。

ぱちりと一度飴色を瞬かせた鈴は、気分を変えるようにテーブルに置いた皿を取った。


「…ほらお兄ちゃん、今日のおやつだよ。あーんして?」
「…あ、うん…」


フォークで刺したタルトが目の前に差し出されると、椿はほぼ条件反射で口を開けた。ほい、とタルトが口の中に投げ込まれる。

サクサクのタルト生地と、イチゴ本来の甘さを損なわない上品なクリームの甘さが絶妙だ。


「…美味しい?」
「うん…」


誤魔化された、と椿は思ったが、それ以上は何も言わなかった。

鈴の事は勿論心配だが、あまり彼の行動に制限をかけ過ぎるのも良くない。それくらい、椿にもちゃんと分かっている。

鈴は、強い。だからこそ、心配な部分もあるのだけど。

息を吐いた椿の反対隣で、翡翠が明るく笑う鈴の表情を見下ろした。ひた、とその頬に手の甲で触れる。


「…翡翠先輩?」
「椿もだが、俺もお前が心配だから。…何をするつもりかは知らないが、本当に無茶だけはしないでくれ」


…こう見えて、鈴が案外過激なのは、初めて会った時から知っている。

何しろ、学園の正門を破壊呪文で破ろうとした子供だ。校舎の一部くらい、景気良く破壊しかねない。

それでも建物的な被害だけであるのならば、まだいい。もし怪我人が出たり、鈴自身が怪我をするような事があれば……、翡翠は首を振った。


「…何かあったら、まず俺たちに言ってくれ。出来うる限りの協力はする」
「…はい」


心配している翡翠の表情の方がよっぽど痛々しくて、鈴は苦笑しながらも頷いた。

見守るように彼らの動向を見ていた孝雪が、ふと口を開く。


「生徒会関連の親衛隊が動くのは、久々だ。…特に翡翠のトコロは大きく動いた事がないからね…、どう出るか、しっかり動向を見ておかなきゃね」
「それは、分かっている」


学園内で最大規模を誇りながら、今まで翡翠がほとんどの人間を近付けなかったお陰で、目立った動きはなかった親衛隊。

翡翠が初めて己に近付けた鈴に対し、彼らがいつどんな反応に出るのかは、前例がない分予測しにくい。

…1-B1に撃ち込まれた攻撃魔法が本当に彼らの仕業だとすれば、事態は急を要するかもしれない。


「…とにかく、本当に周囲には気を付けてくれ、鈴」
「はい。…こう見えて、結構殺気とか読むのは得意ですから、危なそうだったら逃げるかやり返すかしますね」
「…いや、やり返すのは出来れば止めた方が…」


ニコ、と笑った鈴に、眉を寄せ翡翠は言う。

が、鈴はあくまでもやる気だ。


「売られた喧嘩は、言い値で買うんですよ〜。ねぇ、お兄ちゃん?」
「うん、それはそうだね」
「………」


笑顔で頷き合う物騒な兄弟に、翡翠たち生徒会役員は不安を覚えつつも、しかし自分たちが気を付けようと思い直して肩をすくめた。


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