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スメラギ
2

「あぁ、すまないね瀧沢君。久々の甥との再会で、ちょっと我を忘れてしまったよ」
「久々って、三ヶ月くらい……」
「甥…、あぁそうか『永峰』なのかお前」


にこにこと白々しく弁解する樹に、小さくツッコむ鈴。翡翠は今気が付いたというように呟いた。

ふわふわした蜂蜜色の髪を軽く手櫛ですいている鈴を見る。


「……この学校に親戚はいるか?」
「? お兄ちゃんがいますけど……」
「そうか。お前、椿(つばき)の弟なのか」


首を傾げながらも質問に答えた鈴を見て、翡翠は納得したように頷いた。

鈴はぱちぱちと目を瞬かせる。


「会長さん、お兄ちゃんとお知り合いですか?」
「クラスメイト…、まぁ友人だ」
「瀧沢君と椿は、二年生の首席と次席だからね」


翡翠の答えを補足するように、樹が口を挟む。

鈴は感心したように彼を見上げた。


「生徒会長で首席って、会長さん凄いんですねぇ……」
「お前も一年の首席だろう?」


全く他人事のように呟く鈴に、翡翠は肩をすくめた。

鈴はどこまでもマイペースだ。


「立ち話もなんだから、そろそろ中に入らないかい? 中でお茶でも用意するから、瀧沢君もどうぞ」


理事長室のドアを開けたまま呑気に会話を交していた彼らに、理事長の顔に戻った樹が声をかけた。

役目は終わったと思っていた翡翠は、軽く首を振る。


「…いや、俺は…」
「それにどっちにしろ、この後鈴を寮まで案内してもらおうと思っているからね。一緒に入って待っていて」


しかしあっさりと次の仕事を申し付けられ、断る理由もなくなった。

翡翠は仕方ないかと頷き、鈴を先に中に入れてからドアを閉めた。


「ここに座ってて、今お茶を淹れてくるよ」


樹に促されるまま、二人は応接用のソファに腰を下ろした。

そのまま奥へ行こうとする樹を、鈴が軽く押し止める。


「…ちょっと待った」


トーンの低い鈴の声に、樹が足を止め振り向く。


「何だい? 鈴」
「…伯父さんが淹れる訳じゃないよね?」
「私が淹れるよ?」
「……もの凄く嫌な予感しかしないから、僕が代わりに淹れるね」


人好きしそうな笑みを浮かべる樹に、鈴は渋面で言って立ち上がった。


「紅茶でいいの?」
「うん。何種類かあると思うから、好きなの使っていいよ。ケーキか何かが冷蔵庫に入ってる筈だから」
「自分の部屋なのに何でそんな曖昧なの…」


呆れた様に呟き、鈴は部屋の奥へと歩いて行く。

その様を見送った翡翠は、相変わらず笑っている樹に向き直る。


「……何で永峰はあんなに嫌そうにしたんです?」
「苦い思い出があるせいじゃないかなぁ…?」


昔色々あったんだよ、と笑う樹に、その色々は詳しく突っ込まない方がよさそうだと翡翠は肩をすくめる。

代わりに、先程から思っていた事を口に出す。


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