スメラギ
5
「美味しい、って評判だから食べてみたかったんだ、鈴君のお菓子。マカロンは分けて貰い損ねたしさ」
皿を受け取った孝雪は、上品にフォークを取り上げ笑った。
にこにこと上機嫌な鈴は、デューイにタルトのイチゴを食べさせながら言う。
「また、いつでも持ってきますよ」
「それは楽しみだな」
クスと笑った孝雪が、タルトを口に運びながら翡翠を見やる。
含みのあるその視線に、翡翠は肩をすくめた。
「よかったねぇ、翡翠」
「…孝雪」
「…?」
ニヤリと笑う孝雪に、眉を寄せる翡翠。そんな二人の様子に、不思議そうに首を傾げる鈴。
更にそれを見守る三年生という長閑な構図の生徒会室に、それとは対照的なバタバタと騒がしい足音が近付いてくる。
バタンッ、と派手な音をたて開かれた扉を全員で振り返れば、そこにはそんな登場の仕方が似合わない人物がいた。
「っ、今日1-B1が攻撃魔法で襲撃されたって……! …って鈴!!」
「え、お兄ちゃん?」
血相を変えて飛び込んできたのは、椿。
どうやら昼の件を耳に入れ、ここまで走ってきたらしい彼は、ぱちぱちと瞳を瞬かせる弟の姿を見て飛び付いた。
目を白黒させる鈴に、涙目で縋りつく。
「鈴! 大丈夫!? 何処も怪我してないっ!?」
「…だっ、大丈夫だからお兄ちゃん…、落ち着いて…」
普段の無表情っぷりは何処へ行ったのか、相変わらず弟の事となるとすぐに平静を失う椿に、鈴は困ったように眉を下げる。
助けを求めるように隣の翡翠を見上げ…、しかし彼の表情を見てその苦笑さえ固まる。
「鈴、その話は本当か? 怪我はないのか、誰がそんな真似を…!」
「大丈夫です、大丈夫ですったら! 僕が無事なの、見たら分かるでしょ!」
あぁ、余計にややこしくなった! そう思った鈴が叫び、椿を引き剥がして立ち上がる。
その場でくるりと回ってみせ、元気な事をアピールするようにぴょんぴょんとジャンプして言う。
「…ほら、どこも怪我してないから」
「…良かった…」
「……、しかし、そんな事が起こったとなると…」
絞り出すように呟いた椿がへたりとその場に座り込み、鈴を見て息を吐いた翡翠は、けれどその事件に厳しい表情を崩さない。
事態を点目で傍観していた涼壱が、我に返って口を挟む。
「…その件に関しては、実行犯首謀者共に調査中の筈だ。それから、事前に気付いた永峰の防御呪文で実害が無かった事は確認されている」
「……まったく、二人共生徒会長と風紀委員長なんだからさ、もう少し落ち着こうよ」
場違いな程呑気にタルトを口に運ぶ孝雪が続けた言葉に、翡翠が眉間に皺を寄せた。
「孝雪は知っていたのか」
「此処に来る前に、耳に入れたよ。だから鈴君がいたのにもちょっと驚いたんだけど、元気そうだったから問題はないのかな、と」
「…問題は、あるだろう…」
あくまで軽い孝雪の台詞に、翡翠が苦い顔をする。
鈴的には彼のように軽く処理してくれた方が有り難いのだが、学校内で起こった事件としてそうはいかないらしい。
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