スメラギ
4
三年生二人の様子には気付かない鈴は、ちょこりと上に乗ったデューイを退かし、タルトの入った箱を持ち上げる。
「今日は差し入れに来たんです。苺のタルト…ちょうどお茶の時間なので、みんなで食べて下さい」
「あぁ、ありがとう。なら、鈴も一緒に」
「はい、じゃあ僕切り分けますね」
タルトを箱から出した鈴は、春音が持ってきてくれたナイフで、綺麗にそれを五等分に切り分けた。
ゆるりと瞬いてそれを見た涼壱が、感心したように言う。
「器用だな。五等分は難しいだろう」
「慣れてるのでー」
四切れをそれぞれ皿に取り分け、残りはまだ来ていない孝雪の分として箱に戻す。
分け前を期待して膝によじ登る使い魔を宥めつつ、新しいカップに翡翠の分の紅茶を注いだ。
「ぁ、何から何まで、ごめんね?」
「いえいえー、僕こういうの好きなんで、大丈夫ですよ」
手を出すまでもなくさくさくと準備を進めてしまった鈴に春音が申し訳なさそうな顔をしたが、鈴はとんでもないと首を振った。
実家では家事全般を担っていたし、逆に誰かに任せてしまう方が鈴には落ち着かない。
ソファーの隣には翡翠が自然に座り、受け取ったタルトを早速口元に運んだ。
ゆっくりと咀嚼し、その様子を横からじっと眺めている鈴に微笑みかける。
「美味しい」
「良かったです」
「本当に、鈴は料理が上手いな」
タルトの皿を一度ローテーブルに置き、翡翠は蜂蜜色の髪をふわりと撫でた。
長い指の心地好さに鈴は微かに目を細め、向かいに座る三年生二人はこっそり顔を見合わせる。
「二人は仲良しだねぇ…」
「えへへ、そうですかー?」
感心したような春音の言葉に、鈴はふわふわと笑って応える。
一方翡翠は先輩二人に対し、少し不機嫌そうに呟く。
「…何か、いけませんか?」
「否、…ただ、そうしているとお前も年相応に見えるな、翡翠」
ティーカップを取り上げた涼壱がそう言われ、翡翠は微かに眉を寄せた。
子の成長を見守る親のような目線で言われ、少々居心地が悪い。
事情の分からない鈴はこてんと首を傾げたが、膝の上の使い魔にタルトを強請られてそちらに気を移した。
「……あれ、何か今日は賑やかなんだ」
生徒会室で繰り広げられる長閑なティータイムに、扉を開けた孝雪はセレストを瞬かせつつそう呟いた。
「こんにちはー、お邪魔してます孝雪先輩」
「いやいや、いらっしゃい鈴君。……あぁ、これって鈴君の差し入れか」
「苺のタルト、孝雪先輩の分も取っておいてありますよ」
言って、鈴は先ほど切り分けてしまった最後の一切れを皿に移す。
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