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スメラギ
3

鈴がその先輩と向き合っていれば、ティーポットとカップをお盆に載せた春音が戻って来た。


「…あぁ、涼壱(りょういち)。思ったより早かったんだね、部活は?」
「休みだ。顧問が急病らしい」


答えた彼は鈴の座ったソファーの向かいに座り、春音はそんな彼らにカップを配る。

ダージリンの香りが立ち上るカップを手のひらで包み、鈴は向かいのソファーの先輩にぺこりと頭を下げた。


「…えっと、はじめまして、永峰鈴です」
「生徒会書記の、高塚(たかつか)涼壱だ」


ややぶっきらぼうにそう言った涼壱は、口調とは裏腹に右手を差し出してきた。鈴はカップを左手に持ち替え、その手を握る。


「…此処は特殊な場所だ。色々と慣れない事や、理解出来ないような事も多いだろう」


愛想が無いのは、どうやら性質らしい。そんな風に心配してくれる彼はおそらく、中身は優しく義に堅い人なのだと思う。

鈴は微笑み、ふるりと首を振った。


「でも、そういうのも結構面白いですから」
「…しかし、授業中に1-B1の教室に攻撃魔法が撃ち込まれたと聞いたが…」
「えっ?」


涼壱の言葉に、驚いたような声を上げたのは春音。どうやら彼は、今日の昼の事は初耳だったらしい。

けれどあの出来事をさほど大事とは思っていない鈴は、何でもないよう肩をすくめるだけだ。


「あれはまぁ…、怪我人は出なかったんですし」
「しかし、あれは危険過ぎる。…今まででも制裁の類はあった筈だが、下手をすればクラス全員が危険に晒されたと言うのに…」
「…やっぱりアレ、親衛隊とかいうのの仕業なんですかね?」


眉を寄せる涼壱、口元を手で覆う春音を見つつ、鈴はあくまで軽めの口調だ。

しかしその瞳には、微かに刃の切っ先にも似た色が見え隠れしている。


「…それについては。調査中の筈だ」
「そうですか」


会話が一段落し、鈴は手にした紅茶を一口口に含んだ。爽やかな香りをゆっくりと味わい、嚥下する。


「……鈴?」


扉が開いた音に振り向けば、今度こそ待ち人であるその人が立っていた。

鈴は思わず微笑み、ひらり、とカップを持っていない右手を振った。


「お邪魔してまぁす、翡翠先輩」
「…あぁ、立ち入り許可が下りたのか。いらっしゃい、鈴」


暫し生徒会室にいる鈴の存在に考えるように瞬きし、やがて翡翠は表情を崩した。

溶けるように優しい微笑みに鈴は嬉しそうに微笑み返し、春音と涼壱は珍しいものでも見るような表情で二人を見比べる。


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あきゅろす。
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