スメラギ
2
「失礼しまーす」
「…あれ、キミは…?」
顔を覗かせた鈴にぱちりと瞳を瞬かせた人は、それはまた綺麗な人だった。
緩く波打った肩先までの亜麻色の髪と、硝子玉の様に透き通ったヘーゼルアイ。椿とはまた少し雰囲気が違ったが、彼もまたビスクドールの様と形容するのが似合う美人だ。
そして薄紅色のシャツと臙脂色のネクタイは、三年生。
「…えっと、もしかして噂の外部生君かな?」
「どんな噂なのかは多すぎて分かりませんが、外部生ですー」
ゆるりと首を傾げたその人に冗談めかして言えば、彼はにこりと華やかに微笑んだ。
「色々と、興味深い噂を聞いてるよ、従弟からね」
「従弟?」
「初めてまして、永峰鈴君。僕は生徒会会計、3-B1の藤見春音(ふじみ はるね)。愛紗の従兄だよ」
そう言って微笑んだその人の笑顔からは、確かにあの愛らしくも逞しい友人の面影を読み取る事が出来た。
春音が彼よりも遥かに大人っぽい分、言われるまでは気付く事が出来なかったがパーツは共通点がある。
「愛紗が色々話してるよ。ご飯やお菓子が凄く美味しい、とか」
「あはは…、あ、今日は一応お菓子の差し入れに来ましたー」
好意の微笑みに少し気恥ずかしくなりながら、話題に乗じて鈴はタルトの箱を差し出す事にした。
「…あぁ…。…でもこれ、僕が受け取ってもいいのかな?」
「え?」
「翡翠君なら、もうすぐ来ると思うよ」
そう言って笑う春音は、流石二つ歳上の三年生だ。
とりあえず鈴君はお客様だから座ってて、と鈴をソファーに座らせ、彼は生徒会室に併設されているらしい給湯室へ行ってしまった。
残された鈴は、手持ち無沙汰にソファーでデューイを抱えて呟く。
「……ちょっと、なんか…落ち着かないかも……」
普段は寧ろお茶汲みをする側の鈴は、どうにもあまりお客様扱いが慣れない。
ぼやくように呟き無意味に膝を抱えていれば、生徒会室の扉が音を立てて開く。
「……客人か?」
振り向くと、またもや鈴は知らない顔。
春音と同じく三年生らしい彼は、黒髪黒眼の長身の青年。程良く鍛えられているであろう躰から、スポーツマンタイプだと見て取れる、何処か武士然とした雰囲気の美青年だった。
「えーと…、お邪魔してます?」
人見知りする性質ではないが、美形にじっと見られるのは何となく居心地が悪い。
鈴が曖昧に微笑むと、その人も微かに表情を緩めた。
「…なるほど、噂の外部生か」
「…どんな噂だかは、やっぱり多すぎて分かりませんがねー」
良くも悪くも様々な噂が飛び交っているのは知っているから、鈴は肩をすくめ笑った。
いい加減慣れてきたリアクションだが、何とかならないものかとも思う。
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