スメラギ
9
ふぁ、と小さく欠伸を噛み殺した鈴は、窓の外へと目をやる。そこから見えるのは、特別教室が集中する西棟だ。
雅弥がつられて視線をそちらへ移すのと同時、鈴がスッと席から立ち上がる。
先ほどまで眠っていた筈が唐突に立ち上がった彼に、数学教師が怪訝そうな顔をした。
「…何だ、永峰…」
「…窓際の人、みんな伏せて」
教師の言葉を淡々とぶった切り、鈴は窓の方を振り向いた。
言葉を向けられた窓際の席の生徒たちは訳が分からないながらも、鈴の様子から何かを察したか素直に頭を下げた。
雅弥も、前方の席に座った御門も、瞳を瞬かせながらその動向を見守る。
「…<風よ、我等を護る壁となれ…──空障壁(エア・ウォール)>」
──ヒュッ! ガッ、ガッ!!
「「「──!!?」」」
空気を防護壁とするその魔法を鈴が唱え終わった瞬間…、幾本もの風の“矢”が教室に飛来した。
外から飛んで来たのであろう風の刃は、しかし窓の前に築かれた障壁によって弾かれ消える。…が、生徒たちを混乱に陥れるには充分だった。
「…いっ、今!!」
「“風”の攻撃魔法かっ!? 教室に!!?」
「一体何処から…、誰がこんな危ねえ事…!?」
主に廊下側に座った生徒がざわめく中、至近距離で衝撃的光景を目撃した窓際の生徒たちは口をあんぐりと開けている。
…鈴が貼った障壁がなければ、窓ガラスが割れて自分たちも怪我をしていたかもしれない。そう考えると、次第に彼らの顔も青ざめていく。
「なっ!? 教室に撃ち込まれかけた“魔法”だと…!? そんな、誰がこんな真似を…!?」
生徒たちと同じように、チョークを握ったままの数学教師も青ざめている。まさか、授業中にこんな事態が起こるとは思っていなかったのだろう。
半ばパニックに陥った教室の中、鈴は一人何事もなかったのように着席した。
目を見開く雅弥と、どさくさに紛れて彼の席までやってきた御門が、我関せずの姿勢の鈴に詰め寄る。
「鈴! ちょっと今の…!?」
「ん…、何か攻撃魔法で狙われるような“気”がしたからね。とりあえず“風”で簡単に止められる術で良かったよね」
「…そんなの、どうやって分かって…。俺だって、変な魔力は術が放たれるまで気付かなかったっていうのに…」
相変わらず事の重大さを気にしていない鈴は、ふぁとまた小さく欠伸をした。
授業どころではない教室を見渡し、雅弥、御門、友人二人を見上げる。
「んー、じゃあおやすみ」
「…って、寝るの!? この状況下で寝るのっ!?」
「昨日図書館の本読みふけっちゃって…」
「あれほど夜更かしすんなっつっただろ!?」
御門のお母さんちっくな台詞を聞き流し、鈴は再びデューイの羽根に顔を埋めるのだった。
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