スメラギ
7
周囲の罵声は気に止めないものの、翡翠の愁いた表情は気に掛かるのだ。
(…こんなの、何て事ないのにな…)
一応、鈴も自分に敵意が向けられている事には気付いてはいる。…ただ、《ウィザード》とはいえ、たかが高校生の敵意など鈴にとっては痒くもないもの。取るに足らないから気に掛けない、それだけだ。
けれども、翡翠がそれを厭うというのならば自分も一応気を付けよう。そう思った。
「…っ、鈴!」
微妙な空気が流れる翡翠と鈴だったが、やっとギャラリーを掻き分けてやって来た御門と雅弥に振り返る。
ギャラリーが敵意だの好奇だのを彼らに向けている為、御門は口パクで鈴を叱る。
『この馬鹿! 状況読みやがれ、学年首席は飾りか!!』
読唇術でそれを読み取った鈴は、苦笑して肩をすくめる。
「…じゃあ翡翠先輩、授業もあるので…」
「あぁ…、これ、ありがとうな」
周囲が遠巻きであった為、互いにだけ聞こえる程度に声を落として囁き合う。
翡翠にぺこりと頭を下げると、鈴は心配のあまり怒っている御門と雅弥の元へ戻る。
「鈴……、後で覚えてろよテメェ」
「…あはは…」
本気でお説教しそうなお母さんの呟きに、鈴は苦笑いする。
正直、見ず知らずのギャラリーの敵意より、ルームメイトのお説教の方が鈴には怖い。
「うーん…、ごめんなさい?」
「疑問系で謝るんじゃねえよ」
不良な見た目にぴったりな低い怒声だが、ギャラリーの間を抜ける時には庇う位置に出てくれる辺り、御門は優しいと思う。
もう片側を堅めてくれている雅弥に視線を移すと、此方は僅かに表情を歪め肩をすくめた。
「…色々、面倒な事になるかもね…」
食堂みたいな衆人環視ではないから、見逃してくれるといいけど…。と続いた言葉に、鈴は緩く首を傾げる。
十数人程度の刺すような視線を背に受けながら、鈴は雅弥を見上げた。
「正直、今まで会長に近付いた人間なんて生徒会と椿さんくらいで、どんな風になるかは分からないんだよね。…会長って、やんわりと他人を拒絶する人だから…」
雅弥の言葉に、鈴はぱちりと瞳を瞬かせる。
鈴の知る翡翠は、いつでも優しい人間だ。他人を拒絶する様など、鈴には少し想像し難い。
その表情の意味を拾ったか、雅弥が苦笑する。…その優しさは鈴にのみ向けられるものだと、まだ鈴は気付いていない。
「…何にせよ、馬鹿な真似してくる奴らがいなければいいけど…。難しいかもね」
「警戒しとけよ、鈴」
二人の言葉に鈴は頷くが、翌日受ける『嫌がらせ』の内容など、この時は全く予想出来ていなかった。
…あんな幼稚な攻撃など考えつける筈もないが、けれどやはり、
「…売られた喧嘩なら…買わなくちゃね」
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