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セントポーリア
2

「相模君も、別に運動部とかには入ってなかったよね?」
「あ、はい、帰宅部ですけど」


頷いた雪羽は、その割には詩織よりも軽々と資料の山を運んでいる気がする。

元々の半分程の量だとはいえ、かさばるし何より重いのに。やはり若いからか。

そう言うと、雪羽はくすりと笑った。


「米10kgとその他色々を部屋まで持って帰るのに比べたら、このくらい何ともないですよ」
「主夫だね……」


思わずぱちぱちとその胡桃色の瞳を瞬かせる詩織に、雪羽は続ける。


「ウチには意外とよく食べるヤツがいるんで…、結構一気に色々買うんですよ。だから重い物持つのは慣れてます」
「へぇ…」


資料の山を事も無げに抱えながら、雪羽はふわりと柔らかく笑った。

何処となく楽しそうなオーラを纏ったふわふわな笑顔に、詩織もつられて表情を綻ばせる。


「そっか、相模君は自炊してるんだ、偉いね」
「そう大層な物は作れないですけどね。毎日食堂っていうのはちょっと、バカになりませんから」


一人暮らしをしていた事もあるのにあまり家事全般が得意ではない詩織は、緩く首を振る雪羽を若いのに本当に偉いなぁ、などと感心していた。


「…でも、誰かの為に作ってあげるっていうのはいいよね」
「えっ?」
「お友達の為にも作ってあげてるんじゃないの?」


意外とよく食べるヤツ、などという言葉が指していたのは、自分の事ではなかったと思う。

それなら雪羽は、自分で食べる分の他に誰かの分も賄っているのだ。

詩織がそう訊くと、雪羽は澄んだ硝子玉のような綺麗な瞳を瞬かせた。


「あ、えっと……まぁ」
「…?」


戸惑ったように言葉を濁した雪羽に、詩織は首を傾げる。

未だに学園の内部事情に疎い教歴二年目の詩織は、特待生が原則一人部屋なのを知らない。なので、雪羽が気まずそうに視線を彷徨わせる理由も分からなかった。

詩織の様子から、特に勘ぐられている訳でもないと察した雪羽は、ゆるゆると頭を振る。


「…そう、ですね。やっぱり俺の作った料理を食べて、美味しいって言ってくれるのは嬉しいです」
「ふふ、そっか」


言いながら愛らしくはにかんだ雪羽に、詩織も微笑ましいといったように笑う。

背景に花でも舞いそうな程ほのぼのとした空気の二人だが、幸いなのか誰にも出会さずに社会科資料室まで辿り着いた。

両手が塞がっていて鍵を開けられずにわたわたする詩織の手から、雪羽が全ての資料を取り上げる。


「あ、何から何までありがとう…」
「いえ、気にしないで下さい。…でも確かにこの量は重いっていうか、視界が塞がれてなかなか苦しいですね」
「でしょう? …ん、鍵開けたよ、持っててくれてありがとう」


今度は詩織の方から雪羽の持った資料を半分取り上げ、資料室の机に置いておく。

頼まれたのは運ぶだけで、特に何かしてくれとは言われなかったので、これで任務完了という事でいいのだろう。


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