セントポーリア
3
(つまんないって思われてたら、嫌だもんね)
結局四月に新入部員を獲得する事が出来ず、相変わらず詩織一人きりの書道室。
生徒会役員として忙しいソールはいつも来てくれる訳ではないが、時々でも顔を出してくれるのは嬉しいから。
別に、書道部に入って欲しいとか、そういう事ではない。ただ、たまに顔を出してくれるだけでいい。
(だから、また来て貰う為にも、つまらないなんて思われちゃ駄目だからね)
細く息を吐き出した詩織は立ち上がり、不意に視線の高さが変わったソールの碧い瞳が此方を見上げる。
「…ちょっと休憩しようか。峰岸君もお茶飲むかな?」
「イタダキマス」
頷いたソールに微笑み、書道室の近くにある教員用の給湯室へ。
特別棟のこの階で活動する部活が使う筈の部屋だが、界隈でマトモに活動している茶道部くらいなので、やっぱりこの四月からこの給湯室は詩織のほぼ専用だ。
「…今日は何のお茶にしようかな」
ほぼ詩織しか使わない、とはいっても良家のお坊ちゃまばかりが通うこの学園のこと、細かい所まで管理が行き届いている。
緑茶から紅茶、コーヒーまでも産地別に選び放題だが、生憎書道以外には疎い詩織には細かい違いはさっぱりだ。
「緑茶でいい…かな?」
呟いて、適当な茶筒を手に取った。
薬缶でお湯を沸かして、沸いたお湯をお茶っ葉を入れた急須にトポトポと注ぐ。
そのまま深い黄緑色が出るまで…5分弱程待って、湯のみにお茶を移す。
二人分の熱い煎茶を持って書道室に戻ると、ソールが書道道具を軽く片付けておいてくれていた。
「あっ、ごめんね、ありがとう」
「いえ、勝手に除けちゃってすみません」
お茶を飲むスペースを確保しておいてくれた彼の膝元にお盆を置き、淹れてきたお茶を差し出す。
「…どうぞ」
「ありがとうございます」
微笑んだソールは、渡された湯のみに口を付けた。
おずおずと見守る詩織に、唇を歪める。
「……美味しいですよ」
「…そう? 良かった…」
ほっと息を吐いた詩織は、自分の分の湯のみに口を付けた。
その瞬間、穏やかだった表情が強張る。
(――渋い…!)
思わず顔をしかめてしまう程、自分が淹れたお茶は渋かった。
詩織が一口で思わず飲むのを止めてしまう程渋いのに、向かいのソールは涼しい顔でお茶を啜っている。
「っ、峰岸君…!」
「…どうしました、センセイ?」
「…味の感想、もう一回正直に言って…!」
薄く微笑むソールにそう言うと、彼はクスッと笑い声を漏らした。
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