セントポーリア 揺れる花片 生徒総会から数日。あれから詩織はソールには会っていない……が、次にどんな顔をして会えばいいのか分からなくて。 頭を悩ませながらふらふらと廊下を歩いていると、不意に見知った声が掛けられた。 「あっ、瀬戸先生……あ」 「? …っ!!」 ――ゴンッ! 鈍い音が廊下に響く。 考え込むあまり前を見ていなかった詩織は、目の前に広がっていたガラス戸にそれは見事に正面衝突した。強化ガラスのドアがそう簡単に割れる事はないが、思いっきり打ち付けた額が痛い。 「うぅ……」 「…だ、大丈夫ですか、瀬戸先生…」 ぶつかる直前に声を掛けてくれたらしい、雪羽が戸惑いがちに訊きながら近付いてくる。 痛みに思わずうずくまった詩織は、心配そうに此方を覗き込んでくる彼を見上げた。 「だ、大丈夫…。ごめんね相模君、恥ずかしいとこ見せちゃった…」 「あ、いや、……はい。…前はちゃんと見て歩いた方がいいですよ」 苦笑いした雪羽が、曖昧に頷いてから手を差し伸べてくる。 あまり人気のない放課後の廊下だったのが、不幸中の幸いだろうか。これが生徒でごった返す昼休みの食堂付近などであったら、本当にいたたまれない。 雪羽の手を借りて立ち上がりながら、詩織は服についた埃をぱたぱたと手で払った。 「…相模君には、よく恥ずかしいとこ見られてる気がするなぁ」 「え、…あぁ、大丈夫ですよ。気にしてませんから」 なんか、こんなのも先生らしいですよ。と、フォローになっているんだかなっていないんだか微妙な言葉をかけられ、詩織は苦笑いした。 片腕にファイルを抱えた雪羽を見返し、ゆるりと首を傾げる。 「…相模君は何処に行くところだったの?」 「ちょっと、資料室にファイルを取りに行くように先生に頼まれて。もう戻るところですけど」 「そっか、お疲れさま」 言うと、雪羽が小さくはにかんだ。 …ついこの間までは何処か愁いたような空気を纏っていた彼だが、今は一転して幸せそうな空気を纏っている。 花が綻ぶような笑顔に、詩織は瞳を細めた。 「…悩み事、解決したのかな」 「えっ?」 「この前までの相模君、何だか元気が無さそうだったけど、もう大丈夫そうだね」 「え、あ…。……はい」 唐突な詩織の言葉に戸惑ったような表情をした雪羽だったが、思い当たるところがあるのか頬を朱く染めて頷いた。 可愛らしい、何処か眩しく思える表情だ。詩織は小さく笑う。 「…良かったね」 「……はい」 くす、と二人は小さな笑い声を漏らした。 ≪ ≫ [戻る] |