セントポーリア
5
* * *
さらり、頬を撫でるように滑ってゆく感触がこそばゆい。
「んー…」
ふわふわと浮かんでいるような意識の下、詩織はゆると小さく首を振った。
頬を、髪を掠めていく指先。涼やかな笑い声。
(……?)
此処に居る筈のない相手の声が聞こえた気がして、詩織は夢の中で首を傾げた。
夢だろうか、幻だろうか。そんな風に思っているうちに、また笑い声。
「……無防備過ぎ」
困ったように呟かれた声と共に、ふにっと頬に刺さる指。
曖昧な感覚に訴えかけるその感触に、詩織はゆるりと瞼を開いた。
「…ん…?」
「あ、やっと起きた」
「んー…」
「…困ったな、まだ寝惚けてる?」
困った、なんて言いながらも、どこか楽しそうな色を含ませて細められるターコイズブルーの双眸が、自分を覗き込んでいる。
形の良い指先が、頬を滑って喉をくすぐる。その感触に僅かに首をすくめ…、此方を覗き込んで笑う彼にハッとして身を起こした。
「え…、えっ!?」
「あ、今度はちゃんと起きましたね。オハヨーゴザイマス、センセイ」
「え……ぁ、おはよう…?」
にこ、と生徒に人気の高いらしいその日本人離れした美貌を惜しげもなく綻ばせて微笑むソールに、戸惑いながらも詩織は挨拶を返した。
胡桃色の瞳を見張りきょとんとしている詩織を、文机に肘を立てたソールは上目使いに見上げている。
「……、あれ峰岸君、どうして此処に…」
「…やぁっと空き時間が出来たので、ちょっと顔を出しに来たんですヨ」
“やぁっと”、と強調された言い回しに、詩織はぱちりと瞳を瞬かせる。
今日は、ここ数週間忙しそうに働いてきた彼ら生徒会の集大成、生徒総会だった筈。
もしかしたらもう終わったのだろうか、と時計を探すと、もう放課後の時間だ。詩織はぱっちりと瞳を見開く。
「…、センセイ、もしかして講堂には来なかった?」
「あ、僕は校舎居残りで見回り組……でももうこんな時間、寝過ごしちゃった…!」
「…おシゴトサボっちゃダメじゃないですか、センセイ」
「あうっ」
悪戯っぽく囁いたソールが、その綺麗な指で無防備な詩織の額にぺしっとでこぴんを放った。
正面からくらった詩織は、目を白黒させながら彼を見返す。
大仕事から解放されたからなのか、今日の彼はいやにご機嫌だ。
「あ、ぅ、ごめんね…?」
「…特別に、ココでセンセイが無防備にシエスタしてたのは、俺だけのヒミツにしておいてあげますケド」
つん、と先程弾いた額に指先を突きつけつつ、ソールは碧眼を細める。
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