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セントポーリア
3

(……この時間なら、芸術選択の授業か)


声に出す事はないままそう思い、書類を片手に月代はキーボードを叩くソールを見やる。


「気分転換……否、ガス抜き、か?」
「……、まぁ、そんなトコー」


不意に問われた事にその整った眉が一瞬ぴくりと動くが、その含んだような笑みは崩れない。

月代は相変わらず読めない表情でそれを見つめ、雨水は一瞬の反応にぱちりと瞳を瞬かせる。顔を伏せていた那智は気付かなかったようだが、気付いたら気付いたで喧しいのでそれで良かったのかもしれない。

相変わらず勘の良い月代だが、けれど流石に上機嫌なソールの理由までは分からないだろう。月代は美術選択で、書道の専門教師の彼とはほとんど関わりがない。


(…ったく、一方的に見透かされたみたいで、ムカつくなぁ…)


軽やかにキーボードを叩きながら、ソールは瞳を細める。副会長の仕事は、議題草案の作成だ。

本命がいるのだろう、そんな素振りは微かに匂わせる癖に、それが誰だかのヒントは全く見せようとしない月代。

そのうちに暴いてやる、と唇を歪めて決意し、ソールは資料を引き寄せる。


「…あー、もう、俺も気分転換行きたいー! 癒し、萌えをちょうだいー!」


またも煮詰まったのか、再び那智が騒ぎ始めた。机をばしばしと叩く彼に、隣で黙々と仕事をする雨水の眉間に皺が刻まれていく。


「…なら、お前には外に出るお使いでも頼もうか?」


雨水の静かな怒りが炸裂する前に、一冊のクリアファイルを取り出した月代が言った。

デスクワークにはうんざりしているのか、那智はぱっと顔を上げる。


「えっ、なになに? ドコ行ってくればいいの?」
「風紀行きの書類が溜まってるんだ、風紀室まで届けてきて欲しい」
「…ふうき…」


クリアファイルを差し出しながら答えた月代の言葉に、明るかった那智の表情が固まる。

生徒会室の外では寡黙武士として猫を軽く五匹程被って過ごしている那智は、どうやら見透かすような瞳を向ける風紀委員長が苦手らしい。

それを知っていて敢えて風紀行きの書類を差し出す月代に、空いた紙に計算式を走らせる雨水が同意の声をあげる。


「風紀の副委員長と一年生の仲がどうとか、ってこの前騒いでたじゃないか。行ってきなよ」
「うぇっ!? た、確かに後輩×副委員長は超美味しいけど、…でも、風紀室は…」


余程、風紀委員長に苦手意識を持っているらしい。

月代並みに読めない瞳をした彼の風紀委員長が那智に何をしたのかは知らないが、いつも何でもかんでも萌えだと騒いでいる彼がこんなに後込みするのも珍しい。

雨水が口元に笑みを浮かべる。忙しい時でも騒いでいる彼に、ちょっとした意趣返しだ。


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