セントポーリア
2
* * *
「のあーっ! もうっ、またこの委員会決済書の書き方間違えてるし! 何回再提出したら分かるってんだよ!? …しかもこの“雑費”って何さ!? どうせ活動に関係ないモノ買ってるんでしょ、チクショー!!」
生徒総会まであと一週間、仕事も追い込みに入った生徒会室。そのストイックささえ感じさせるしなやかな美貌を派手に崩して苛立たしげに怒鳴るのは、書記の泉谷那智(いずみや なち)だ。
現代の武士とも称されるその容姿には到底似合わない壊れっぷりだが、元々彼の外面は猫被りであり、いつも生徒会室の中では素全開である為、他の役員たちは今更其処を気に止めたりしない。
各委員会・部活動から提出された決済書、要望書を纏めながらぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる那智に、隣で仕事をしていた会計、藤城雨水(ふじしろ うすい)がぽつりと言う。
「…煩いよ、泉谷。黙って仕事しな」
「……ハイ、スミマセンでした」
氷点下の声色に、素直に謝って震える那智。
会計の雨水も那智と同じく各委員会や部活動から上がってきた決済書を纏め、来期の予算案を練っているのだが、那智が喚いていた通りどれもこれも穴だらけの書類なのだ。苛立ちも溜まる。
「書類に不備があるなら、その分予算から引いてやればいい。…何度言っても直らないんだもの、容赦なんていらないよ」
「…う、うん…(うーちゃん怖い…)」
喚き散らす那智とは反対に、雨水は静かに怒りを溜めるタイプのようだ。
急激に体感温度の下がった生徒会室に那智が震えていると、不意にドアが開いて何処かへ行っていたらしい副会長が顔を覗かせる。
「…タダイマー」
「あ、ソーちゃんおかえりー」
頭痛しかもたらさない書類から顔を上げ、にまにまと含み笑う馴染みの顔を振り返る。
生徒会室に缶詰だった彼らとは違い、ソールは何処か機嫌が良いようだ。
「おかえり峰岸。…何処に行ってたの?」
「授業だヨ」
「授業? それだけ?」
簡潔な応えに、書類を片手にパソコンを叩く雨水が瞬く。
繰り返すが、生徒会は今追い込み作業中だ。他の役員たちは授業免除特典をフルに使って仕事の纏めに入っているというのに、ソールは授業に行っていたというのか。
「高校生が授業を受けるのに、何かオカしい事なんてある?」
相変わらず、人を喰ったような読めない笑みで。瞬いた雨水に軽く応えたソールは、席に座ってパソコンの電源を入れた。
「…いや、別にお前の仕事が大丈夫ならいいけど…」
「ダイジョブ、ダイジョブ」
デスクに積まれた書類の山を一掴み、笑みを浮かべたまま仕事を始めたソールに、雨水と見守っていた那智は戸惑ったように顔を見合わせる。
…ふと、今までただ黙って仕事をしていた為完全に空気と化していた我等が生徒会長、須藤月代が顔を上げた。
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