セントポーリア
4
「あれ……?」
「…センセイ」
陽に透ければ淡く輝くような美しい金髪を持った生徒など、学内にも彼くらいしかいない。
詩織の呟きに此方を振り返ったソールは、母譲りのその美貌を惜しげもなく綻ばせて微笑んだ。
「良かった、今日活動日でしたよネ?」
「う、うん。…もしかして、わざわざ待ってたの?」
彼の不意の登場に戸惑いながら訊くと、彼は惜しげもなく艶やかに笑う。
「今日はセンセイに会いたくて時間作ってきたので」
「えっ、あ…。…待たせちゃって、ごめんね」
「いえ、俺が勝手に待ってただけなので」
にこにこと笑ってそんな事を言うソールに、じわじわと頬に熱が集まっていくのを感じる。
彼に他意はないのだとしても、モデルも顔負けのその美貌の笑みは破壊力が高い。
「…あっ、今鍵を開けるね」
ふるりと首を振って熱を払い、詩織は持ち歩いている鍵で書道室の扉を開けた。
わざわざ廊下で待っていてくれていたソールを先に部屋に通して、自分も靴を脱いで部屋に上がる。
墨と藺草の匂いが混ざり合ったこの場所独特の慣れた匂いに、ふ、と小さく息を吐き出す。
「…でもいつもなら、もう部屋で書とにらめっこしてる時間でしょ? 今日は何かしてたんですか?」
「あぁ、社会科の佐山先生に頼まれて、資料を資料室まで運んでたんだ」
「へぇ…」
言いながら、肩をトントンと叩く。…鈍った躰には久しぶりの労働だった為、明日が少しだけ怖いかもしれない。
そんな詩織を見て、ソールはクスリと笑う。
「センセイ、非力そうなのにネ?」
「ふふ、峰岸君はよく分かってるね。…よろよろしながら運んでたら、クラスの子が見かねて手伝ってくれたよ」
若いというだけで労働力だと見なしてくる教師陣とは違い、流石生徒会副会長のソールは教師を良く見ている。
…確かに普段の生活で、詩織が力仕事をする事などほぼ無い。詩織よりも小柄な雪羽の方が、よっぽど頼り甲斐があったくらいだ。
「クラスの子?」
「うん。これでも一応、副担のクラスも持ってるから」
「あぁ、…確か1-Aでしたっけ」
「そう。流石副会長さん、よく覚えてるね」
「フフ、ありがとうございます」
ぱちぱちと小さく拍手をすると、ソールがクスクスと笑う。
雑談をしながら、詩織は硯を取り出して墨を擦り始めた。ソールはいつものように、それを隣から眺めている。
「…そう言えば、生徒会は大丈夫?」
「ダイジョウブ。…早めに片付けて時間作って来れるくらいには、落ち着いてますから」
惣院の生徒会執行部役員は、基本的にたった四人で仕事を回している。
その年によってそれぞれの役職補佐を着けたり着けなかったりするようだが、今年はどの役員も補佐を選んでいないから、本当に四人だけで仕事をしている筈だ。
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