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アットホーム・ラブライフ
12

耳元で囁かれるのは何故かくすぐったくて、背筋がぞわぞわした。

俺の名前を呼んだ雄飛は、何か言い惑うように口を開閉させた後、小さくため息を吐いた。


「……、なぁ、藤、俺のこと好きか?」
「え?」


絞り出されたような声でそう訊かれ、俺は虚を突かれて瞬いた。

好き? ……少し前までの俺なら、深く考えずに笑って「あぁ、好きだよ」なんて軽く答えられただろう。

けれど、今の俺はその言葉の裏にある雄飛の意図、彼の気持ちを気にしてしまって上手く答える事が出来ない。

口ごもる俺に何を思ったのか、雄飛が堅い表情を僅かに崩して苦笑いする。


「……即答されない、って事は少しは意識してくれたんだよな」
「あ、え……」


雄飛の言葉に、俺は戸惑って視線を揺らす。

確かに、その通りかもしれない。年甲斐もなく抱き寄せられただけで真っ赤になって、彼の言葉一つでこんなにも動揺している。

雄飛を意識している。その事実に辿り着くだけの状況は充分揃っていた。けれど、俺はそれを素直に認める事も出来なくて……。


「そ、んな事……」
「ない、って顔かよ」


雄飛の手がまた俺の頬を撫で、俺はびくりと肩を揺らした。ドクドクと、心臓の音が煩い。


「ま、嫌われてるならこんな反応はされねえよな」
「……、嫌い、ではないけど」


嫌いな訳がない。彼のことは可愛い弟分のようなものだと思っていたし、休日の時間を彼の為に割く事を厭わないくらいには『好き』な筈だ。


――でも、この『好き』はどういう意味だ?


(だって、雄飛は俺と同じ男で、ひと回りも年下だっていうのに……)


ただ弟分に向ける好意でなければ、いけない筈なのに。


「…藤」


また雄飛が俺の名前を呼ぶ。年下のくせに、躊躇いなく俺を呼び捨てにしてくる小生意気な少年。そんな彼のことを、俺はどうしても嫌いにはなれないし、拒めない。

どう、しよう。固まる俺に、雄飛は更に言葉を落とす。


「……、俺は、藤が好きだ」
「…ぁ」


小さな、絞り出すような声。震えた語尾と、さっきから押し付けた頬に当たって煩いくらいの心臓の音が、相手の緊張を伝えていた。

――好き。誰が? 何を? ……なんて下手な誤魔化しは効かない。雄飛はしっかりとそれを口にしたから。


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あきゅろす。
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