アットホーム・ラブライフ
8
「こういうのは?」
「……まぁ、悪くはねぇけど」
デザインと値段を見比べて、緩く首を捻る雄飛。悪くない、とは言いながら特別良いとも思っていないみたいだ。
種類が多いからか目移りしている雄飛は、意見を求めるようにちらりと俺を見やった。
「雄飛って、何が好き?」
「あ?」
いや、選ぶ時の参考にしようと好みを訊いただけなんだけど……。何故か雄飛は微妙な顔をした。
「いや、色とかデザインとかさ、どんなのが好き?」
そんなに変な事を訊いただろうか? 訊いた俺の方が首を傾げながら言葉を続けると、雄飛は俺の顔を見ながら口を開いた。
「……藤」
「へ?」
その口から出たのは、俺の名前と同じ二文字。目を丸くする俺に、雄飛は小さな声で続けた。
「藤が好きだけど」
「えーと……、それは色的な意味で? 花的な意味で?」
それとも俺が? なんて、自意識過剰みたいな事は流石に口に出しては訊けない。
俺の名前は色の名前でも花の名前でもあるから、どういう意味かは決め付けられない。でも此方を真っ直ぐに見る雄飛に、心臓がバクバクと騒がしくなった。なんだこれ。
「まぁ、色も好きだけどな。藤色」
「も、って……」
どういう意味? 雄飛の瞳に映る俺は、多分酷く情けない表情をしていたと思う。
理由も分からぬまま謎の緊張に固まっていた俺の額を、不意に表情を崩した雄飛がこつんっと小突いた。
「俺がお前を好いてないとでも思ってんのかよ、バーカ」
「なっ…!? い、いや、そりゃ嫌われてるとは思ってないけど、改めてそう言われると……」
照れるっていうかなんというか、とにかくこっぱずかしい。
俺が変に熱くなった頬を冷やそうと両手を当てると、雄飛がそれを剥いで彼の手を俺の頬に当てた。
「へっ…!?」
「俺の手の方が冷たいだろ?」
「えっ、あ、いや……」
確かにそうだけど! 何この体勢!?
俺よりも大きい雄飛の手のひらがぺたりと両頬を包み込んで、自然と上向きに、雄飛を見上げる姿勢になる。
此方をじっと見下ろしてくる雄飛と、視線が合う。
「……」
「……」
何だ、この変な沈黙……。
変に暴れる鼓動は治まらないけど、俺の頬に触れている雄飛の手は次第に俺の熱を吸って温くなっていく。
「……、雄飛、もういいって、離して」
「……」
そう言うと、雄飛はまた案外あっさりと手を離した。
何だっけ? 何の話だったっけ? 好みの話? あれ?
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