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アットホーム・ラブライフ
4

最近やたらと背中が凝る俺は、とんとんと自分の拳で肩を叩いた。


「……桜、後でマッサージ頼む」
「えー」
「家に置いてやるんだから、ちょっとくらいは手伝いしろ」
「えー、まぁ、やれって言うならやるけどさぁ」


不満げにしながらも頷く桜は、きっとぶつくさ言いながらもやる事はやってくれるだろうが。

自分だと背中の凝りを解すのはなかなか大変だし、湿布などを貼るのですら一苦労だ。せっかくだから、その辺りは桜を存分にこき使ってやろう。一週間の生活費を受け持ってやるのだから、安いものだろう。

トントンと自分の肩を拳で叩いていると、ふと雄飛と目が合った。普段なら視線が合うとふいと逸らしてしまう彼は、何かもの言いたげに此方を見つめている。


「雄飛?」
「……マッサージなら、俺が今やってやろうか?」
「へ? 今? 有り難いけど今はいいよ、一応仕事中だし」


思わぬ申し出に、きょとんとしてしまう。

雄飛の気持ちは嬉しいのだが、流石に仕事中だ。しかも、一応はお客さまの雄飛にそんな事をさせる訳にはいかない。そう言ってくれただけで充分だ。

そう言って俺は遠慮するが、何故か雄飛は不機嫌そうに首を振る。


「遠慮すんなよ」
「いやいや、するよ。雄飛一応お客さまだし……、ってコラ、お客さまがカウンター内に入らない!」
「いいから黙れって」


もう一度改めてお断りしようとした俺の言葉に構わず、席から立ち上がって勝手にカウンター内に入ってくる雄飛。

とりあえず席に追い返そうとするも、利き手の手首を捉えられてしまう。


「コラ、雄飛」
「いいから大人しくしてろ。気持ち良くしてやるから」


相手は雄飛だし店のカウンター内という狭い場所だしで強引に腕を振り解けない俺に、やや尊大に言う雄飛。

何故か、隅の席の女子大生たちから小さな歓声が聞こえた気がした。それ以上に近くから、桜がケタケタと笑う声も聞こえた。


「桜! 笑ってないで助けろよ!」
「いいじゃん、お言葉に甘えて肩でも揉んでもらえば」
「そうだ、往生際悪いぞ、藤」
「どっちが!?」


言っているうちに雄飛はくるりと俺の身体を回して、俺の背後に立った。

無防備な俺の背に、ぐりぐりと押し付けられる雄飛の拳。


「ひゃっ」
「…確かに凝ってんな。かてぇ」
「立ち仕事は結構背中と腰にくるからな……」


やや強引にマッサージを始めてしまった雄飛に、俺は最早抵抗を諦めて力を抜いた身体を相手に預けた。

ぐりぐり、凝った場所に押し付けられる拳は、悔しいがなかなか気持ちが良い。


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あきゅろす。
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