アットホーム・ラブライフ
2
そんな事を思ったが、昔から桜は色恋の話を振ると真っ赤になって動揺し、そしてどんなに問い詰めようにも絶対に俺たちには話してはくれないので口には出さずに止めた。
まぁとにかく、携帯料金を優先したお陰で電気が止まったと。自業自得だと蹴り出したいような事情ではあるが、兄弟の情がそれをさせてはくれない。なんだかんだ言いながらも、男兄弟の中では末っ子に当たる桜のことはつい甘やかしてしまうのだ。
「……仕方ないな」
「っ、ありがとう、藤兄!」
「流石に実弟は蹴り出せないからな。一週間でいい、って事は一週間後には何かあてがあるのか?」
「あ、一応来週が給料日だから、少しだけどバイト代入ると思う」
電気も止まったし生活費も少なくなってきたから、俺の所へ転がり込もうと言うのだろう。仕方のない弟だ。しかし、桜はそんなちょっと不出来なところが可愛いのだから仕方がない。
俺はカウンター席に座る弟の頭を、くしゃくしゃと撫でた。
「分かった、一週間は家で面倒見てやる。その代わり、勉強はしっかりやるんだぞ」
「大丈夫!」
ちょっと抜けている桜だが、これで兄貴たちには負けないようにと努力家な部分もあるので、受験生の時は猛勉強してなかなかの名門大学に入っている。入学してからも授業についていけるようにと勉強は欠かさないようだから、兄としては微笑ましく誇らしい。
頷いた桜から一度離れて他のお客さまのお代わりのコーヒーを淹れていると、入客を告げる入口のベルが鳴る。
「いらっしゃいませー。…雄飛か、いらっしゃい」
「……おう」
お決まりの言葉を口にしながら振り返り、最早見慣れてしまった少年に改めて微笑む。
相変わらずこっちから微笑みかけたり見つめたりすると、雄飛は少し照れたようなはにかむような反応をみせる。そういうところは、なかなか可愛いと思う。
雄飛はいつもカウンター席の真ん中辺りに座るけれど、生憎今日はその辺りには桜が座っていた。どうするのかな、と見ていると、彼は桜を避けてカウンター席の端っこに座った。
「…いつもの?」
「いつもの」
そう言って注文を確かめると、雄飛は微かに口角を上げて応えた。こういうやりとりをするといかにも常連という雰囲気があるからか、雄飛は何だか機嫌が良くなる。こういうところも、ちょっと可愛い。
クスッと笑って日替わりコーヒーを淹れに行くと、今度はカウンター席中央から視線を感じた。振り向くと、マグカップを両手で包み込んだ桜がやや間抜け面で此方を見つめている。
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