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アットホーム・ラブライフ
4

「美味しい?」
「……美味い」
「良かった。これで安心して店に出せそうだ」


自己評価でもなかなかだったケーキだけれど、他人の、特にお客様の評価も大切だ。

店員の評価も大事だから、後でバイト青年にもしっかり感想を聞いておかないと。彼はただケーキが食えると喜んでいたが、試食も仕事の一環だ。店員の場合は、ただ惰性の『おいしい』の一言では許されないぞ。

もぐもぐと案外可愛らしくケーキを頬張る雄飛に、俺はふっと笑みを向ける。


「コーヒーのお代わりは?」
「……それも、サービス?」


お財布事情を気にしているのか、そんな風に訊く雄飛の表情は俺の兄心をくすぐる。

言った時はサービスのつもりではなかったけれど、弟分のそんな反応を見せられたらつい一肌脱いでしまう。


「ん、じゃあ特別に俺の奢りにしておいてやるよ」
「…ありがと。じゃあ、カフェオレ」
「かしこまりました」


素直にお礼を言う雄飛に笑顔で頷いた俺は、彼の飲み干した一杯目のコーヒーカップを持って裏へ戻る。

比較的暇な時間帯で、キッチンスペースの掃除をしていたバイト青年が、俺たちの会話を聞いていたのか引っ込んできた俺を見てひょいと肩をすくめた。


「なんだかんだ店長も、彼に甘々っスね」
「…そうかな?」


言いつつも、弟みたいで可愛いなと思って、つい甘やかしてしまうのは事実かもしれない。

俺を慕って、毎日のように店に来てくれるんだ。可愛いじゃないか。

雄飛がどういう意味で俺を“慕って”いるかなんて知らない俺は、上機嫌に鼻歌なんぞ歌いつつカフェオレを淹れた。


「弟分、ねぇ」


罪作りな天然誑しだな、なんて呟かれた声は知らず。

暇そうにしている彼に休憩に入るよう告げ、試作品のミルクレープを渡して休憩室に送り出す。休憩が終わったらちゃんと詳細な味の感想を言うように、と付け足して。

カフェオレを手に戻ると、雄飛はまた俺の顔を見つめた。


「……しつこいぞ?」
「いいじゃん、別に」


また童顔と言われる前に釘を刺すと、カフェオレを受け取った雄飛が笑った。

此方は高校生とは思えないような大人っぽい表情で、艶やかに唇を歪める。


「藤の顔、好きだし」
「へっ?」
「好きじゃなきゃ、こんなに見ない」


不意打ちの「好き」に、俺は思わずドキッとして雄飛を見つめ返した。

真っ直ぐに返ってくる視線。くすぐったいを通り越して、頬が熱くなる。


「あー、えっと……ありがと?」


彼の口調を真似して頬を掻くと、何故か雄飛は肩をすくめてミルクレープの最後の一切れを口に入れた。


「……ま、悪い反応じゃねぇか」


ケーキと一緒に飲み下した彼の言葉は、やっぱり俺には聞こえていないのだった。


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