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アットホーム・ラブライフ
2

惚れ込んでる、ねぇ……。以前大学入学で上京したての頃、粋がってた高校生ヤンキーをボコしたら、『アニキ!』なんて呼び慕われた事はあったけど。

いや、あの頃は俺も若かったんです…。中学生に間違えられてしかもいきなり絡まれたからついカッとなって全員沈めたら、何故か懐かれちゃっただけなんです……。

大学の正門まで迎えに来られて、「アニキ! お疲れさまッス!!」なんて言いながら進んで荷物持ちをやられた日には、ちょっと不登校になりかけた。今も昔も俺はヤンキーじゃないぞ、断じて。

そんな元ヤン少年たちも、今では真っ当な社会人になって仕事に勤しんでいるらしいが、それはさておき。

確かに、一晩介抱して何かと世話を焼いたのは、懐かれる要因になるのかもしれない。けれど、たった一度だけのそれで、雄飛のような少年がほぼ毎日喫茶店に通う理由になるのだろうか。


「うーん……」


首を捻りながら、俺はダンボールからコーヒーフィルターを取り出した。

先程のバイト店員にそれを渡して所定の場所に補給するように指示してから、俺は再びカウンターに戻った。

スマフォの画面を眺めていた雄飛が、足音に気付いたのか顔を上げてまた俺の顔を見つめてくる。


「俺の顔、そんなに面白いか?」
「あぁ。アラサーにはとても見えない童顔だな、って」
「余計なお世話だよ!?」


童顔なんて今更言われ慣れてるし、自覚もしてるけどさ。そう何度も何度も言う事ないじゃないか。ていうか、アラサー言うな。


「その反応も面白い」
「……あんまり大人をからかうんじゃないぞ」
「いやだ、面白いし」


生意気に笑う雄飛に、ますます分からなくなる。

以前俺を慕っていた(ていうか舎弟志望?)少年たちは、間違っても俺をからかおうだなんてしなかった。いや、あの自ら進んで俺のパシリをやりたがる態度も問題だし、雄飛にそれをやられたら気持ち悪いくらいだけど。

雄飛は十以上も年上の俺を敬う様子もないし、敬語も全く使わない。確かに俺に懐いてくれてはいるんだろうが、慕っているのとは何か違うような……。


「…雄飛って兄弟いるのか?」
「何だよ、いきなり。……一人っ子だけど」


唐突な俺の問いに瞳を瞬かせながら、けれどちゃんと答えてはくれる雄飛。

そうか、一人っ子か。なるほど、そういう事か。


(俺を実の兄さんみたいに思って、懐いてくれてるんだな!)


一人納得して頷いている俺は、雄飛の不審そうな眼差しには気付かない。


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