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アットホーム・ラブライフ
5

「……」
「…どした?」
「……、別に」


無言で藤の笑顔を見つめていたら、ぱちりと瞳を瞬かせて首を傾げられる。

だから、そういう仕草が無駄に幼くて、とてもアラサーには見えないんだっつうの。そう思いながらも、口には出せない。それ以上に、『可愛い』だなんて思ってしまっているから。

出逢ってから、たった一晩。俺は藤のことをほとんど知らないし、藤はそれ以上に俺のことを知らないだろう。

なのに、これでもかという程見ず知らずの俺にお節介を焼くこの男に、俺はざわざわと感情を波立てられるのを感じる。

じっと、穴が開く程に藤を見つめていると、藤は流石に戸惑ったように笑みを作った。


「…な、何? かつてない程にガン見だな?」
「……、さっきの仕返しだ」
「えっ、俺さっきそんなにガン見してた?」


見るのは良くても、やっぱりガン見されるのは気になるのか。おろおろとしはじめる藤に、俺はおかしくなってふっと笑った。


「……それにしても、ホントに童顔だな」
「知ってるよ! そんなしみじみ言わなくても!」


まぁ、会う人会う人に言われる事なんだろうな。それでも改めてしみじみ言われるのは堪えるのか、少し語気を強めて言い返される。

ムキになる歳上が、どうにも可愛い。


「…ウチの兄さんなんか、もう三十路の所帯持ちなのに見た目は完全に大学生だからね」


なんて、言い訳になっていない言い訳に思わず笑ってしまう。


「いや、アンタも似たようなもんだろ。てか、童顔は家系か」
「そうだよ、六人兄弟全員筋金入りの童顔」
「筋金入りって……」


童顔の前にそんな修飾詞が付いたのは初めて聞いた。

ツボにハマって笑い続ける俺に、藤はふと優しい笑みを零した。


「……、何?」


そんな、慈愛に満ちた聖母みたいな顔に気付いて、俺は思わず訊いてしまう。


「いや? 今朝の雄飛は、よく笑うなぁ、って」
「……」


言われて、気付く。こんなに笑ったのはいつ振りだっただろうか。

思わず笑みを消した俺に何を思ったのか、藤が慌てて言葉を続ける。


「あっ、別に悪い意味で言ったんじゃないって。笑ってた方が絶対いいし!」
「……ああ」


頷きながら、俺はぱたぱたと手を振って慌てる藤を見てまた小さな笑みを零した。

なんかもう、ホントに。


「……なぁ、藤」
「うん?」
「今度は客として此処に来るから。アンタ、いつならシフト入ってる?」


たった一晩だけじゃ足りない。もっと、彼との時間が欲しいし、必要だ。

とりあえず常連にでもなって距離を縮めるか。そう思って訊いた俺に、さらりと落とされる衝撃。


「定休日以外はだいたいいるよ。俺、此処のマスターだし」
「……は?」


マジかよ!?

ギョッとした俺に、藤はまたふにゃりと苦笑いした。ああもう、だから可愛いな、クソ!!


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あきゅろす。
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