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アットホーム・ラブライフ
4

「…隣に座んの?」
「此処で全然別の席に離れて座るのも変だろ?」
「まぁ…」


確かにそうだけど。少し、落ち着かない。藤が嫌な訳ではないけれど。

コーヒーをブラックのまま口付ける藤を見、俺は口を開く。


「……店開けるのって、何時くらいなんだ?」
「いつもは10時開店なんだけど、今日は定休日だよ」
「…そうなのか」


そう言われてみれば、昨日明日は休みだとか言っていたのを聞いた気がする。なら俺は、店の定休日にわざわざ世話になってるのか。俺に構わなければ、休日をゆっくり休めたのだろうに、つくづくこの男はお人好しだ。

…俺は、ミルクを入れたコーヒーを啜る。お人好しお人好し、と繰り返しながらも、そのお人好しに助けられているのは俺だ。

その後は、ほとんど黙ったまま朝食をたいらげた。隣から此方をじっと見てくる藤とは、なるべく目を合わせないようにしながら。


「……足、大丈夫? テーピングと湿布、貼り直そうか」
「……、じゃあ頼む」


大丈夫、と答えようとも思ったが、一晩経って湿布も少し温くなっている。自分では彼程しっかりと足首を固定する事は出来ないだろうから、世話になれるうちに世話になっておいてもいいだろう。

カウンター席に座り直すと、またどこからか救急箱を持ってきた藤が俺の足元に座った。

この構図は、まるで跪かれているようで……何だかこう、ぞくぞくとする。勿論そんな事、口に出せる筈もないが。

丁寧にテーピングを解かれ、優しく湿布を剥がされる。元より藤は俺より背は低いが、この体勢だと小さな旋毛がよく見えた。手が届く距離なら、触るのに。


「痛くない?」
「大丈夫だ」


一晩経ったからか、負荷をかける事をしなければ特に痛みはなかった。だからと言って、テーピングでの固定無しで家まで歩いたらまた悪化しそうだが。

患部の大きさに合わせて湿布を切り取って、ぺたりと貼られる。ヒヤリとした感覚に、微かに眉を動かした。


「どう?」
「…平気」


短く応えると、何がおかしいのか藤がふっと笑った。無邪気に笑うと、余計に幼い。

次いで、テーピングがぐるぐると巻かれていく。ただ悪戯に巻いているだけにも見えるが、しっかりと固定するにはコツがいるのだろう。簡単に真似する事は難しそうだ。


「これでよし、と。一回立ってみて、具合悪そうなら言って」


言われた通りに立ち上がってみるが、痛みなどはない。歩くのにも問題はないだろう。


「……、いや、これで大丈夫そうだ。…ありがと」
「どういたしまして」


短くお礼を口にすると、藤はふにゃっと微笑んだ。締まりのない笑顔に、思わずドキッとしてしまう。


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