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アットホーム・ラブライフ
2

その様子を見ているともう何度目かになる「ホントに年上か?」なんて思考が頭をよぎる訳だが、彼に嘘を吐く理由もないし、言動からしても本当に年上なんだろう。やっぱり見た目はとてもそうは見えないが。

俺がベッドの上で半身を起こすと、床に座っていた藤も立ち上がった。くしゃりと寝癖の付いた柔らかそうな髪を掻き上げ、藤は此方を振り向く。


「朝ご飯食える?」
「……、あぁ」
「ん。じゃあ用意して来るな。……あ、顔洗うなら奥に洗面所あるから。先使うけど」


言って、今示したばかりの洗面所に入っていく藤。仮眠用のベッドに洗面所と、元々この休憩室は泊まりも出来るように作られているのだろうか。

もぞもぞとベッドから立ち上がると、寝癖を直す為に水でも被ったのかびしょ濡れの頭をした藤が出て来る。

それがおかしくて小さく笑うと、彼はまた少し恥ずかしそうに頬を染めた。


「笑うなよー」
「いや、だって…」
「そういう雄飛だって寝癖付いてんぞ」
「げ」


咄嗟に頭に手をやった俺に、此方を指差した藤がさらりと続ける。


「嘘だけど」
「おい!」
「ちゃんと顔は洗って来いよー」


騙された俺は叫ぶが、藤は文句は聞く気はないとでも言うようにひらひらと手を振って部屋を出て行ってしまう。

ムカつく態度だ。…いや、年下の俺に笑われたりからかわれたりした藤の方がムカついていたのかもしれない。これくらいの意趣返しは仕方ないか。

昨夜から、全面的に世話になっているのは俺だ。俺が頼んだ訳ではなく全て藤側からのお節介ではあるが、感謝していない訳ではない。


(ありがとう、とか……言いづらいけど)


湿布の上からテーピングが施された足首を見下ろす。しっかりと巻かれたテーピングのお陰で、動かす事に支障はない。

むずかゆいような気持ちを持て余しながら洗面所で顔を洗い、寝癖は付いていないものの乱れていた髪を軽く整えた。着替えまでは流石に用意がなかったから、服装は制服のままだ。カッターシャツが皺になってしまっているが、それも今更な話だろう。


「……藤」


休憩室を出て声をかけると、客は誰も居ない小洒落た雰囲気の店の中、キッチンの方に籠もって朝食を作っていたらしい藤が顔だけを出して言った。


「先にコーヒー淹れたから、座って待ってな。あっ、コーヒー飲めるか?」
「飲める。……ありがと」


俺の小さな言葉にパチリと榛の瞳を瞬かせた藤は、はにかむように微笑んだ。


「どういたしまして」


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あきゅろす。
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