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アットホーム・ラブライフ
夢から覚めても

* * *



目を覚ます。ゆっくりと、瞼を開ける。

霞んだ視界に映った其処は、慣れ親しんだ自室ではなく、木目調の壁紙の貼られた馴染みのない部屋。確か、従業員用の休憩室だと言っていた場所だ。

シングルのパイプベッドの上で寝返りを打ち、俺は昨夜の出来事を思い出す。

評判の悪いチームの人間数人に絡まれ、全員を蹴散らしたものの俺の方も軽く怪我をしてしまって。歩けずに路地で座り込んでいたら、声をかけてきた男。

人が良さそうな雰囲気で実際並み外れたお人好しで、怪我をしていた俺を介抱してわざわざ俺に付き合って終電を見送り見ず知らずの俺を店に泊めた、少年と青年の間くらいに見える、自称成人済み。


「……藤?」


同じ部屋で休んだ筈の彼の姿を探せば、ベッドから少し離れたベージュのソファーの上で小柄な躰を丸めて眠っていた。

すうすうと寝息をたてるその寝顔は随分と幼く、自称28歳にはとても見えない。せいぜい俺と同い年くらいの高校生か、よくても大学生か。とにかく、彼は超童顔である。

声をかけても起きる様子はなく、俺の方もわざわざ起き上がってまで彼を起こす気にもならなかったから、ベッドに寝転がったままその寝顔をじっと見つめる事にした。

そのまま、どのくらいの時間が経ったのか。せいぜい5分10分程度だろうが、もぞもぞと寝返りを打った彼がゆっくりと瞼を開いた。


「うー…ん……」


もぞ、とソファーの上の塊が身じろぎし……ソファーが狭かった為かそのまま彼はその上から落下した。


「うわっ!?」
「……、何やってんだよ」


ドサッ、という音と、上擦った悲鳴。

床の上で寝起きの瞳がぱちくりと瞬くのを見て、俺は思わず呆れたような声が出た。

彼を幼く見せているその大きな榛色の瞳と、ばっちりと視線が合う。其処で初めて俺の存在を思い出したのか、白い頬にさぁっと赤味が差した。


「い、今の見てた?」
「……あぁ、見事にソファーから転がり落ちたな」
「うわあぁぁ、ちょ、今のは忘れてくれ! なんかもの凄く恥ずかしいから!!」


寝起きでよくそんな大きな声が出るものだ、なんて関心する程の勢いであわあわと叫ぶ。

その様子がなんとも面白く、ついからかうような言葉が口から出てしまうのは仕方ない事だろう。


「忘れらんねぇよ、そんな見事な落ちっぷり」
「ああああああ、ちょっ、忘れてってば!」


クス、と我ながら意地悪く笑いを漏らすと、藤は床に座ったままそう叫んだ。

躰にかけていたタオルケットをギュッと握り締めるその仕草は、なかなかカワイイと思う。


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