[携帯モード] [URL送信]

アットホーム・ラブライフ
4

彼に肩を貸したまま、俺はすっかり片付け終わった閉店後の店の中に入る。

きょろきょろと落ち着かなそうな少年を手頃な椅子に座らせ、休憩室から従業員用の薬箱を取って戻ってくる。

火傷の薬や定番の絆創膏などが入った箱の中から、湿布薬と使うかどうかは分からないがテーピング用のテープを取り出し、椅子に座った少年の足元にしゃがみ込む。


「靴下脱がせるけど、痛かったら言ってな」
「……ん」


頷いた彼は、少し居心地が悪そうだった。お節介が過ぎたかな、と思いつつも、それでも俺は彼を放っておくなんて出来なかった。

俺のものよりも大きいだろうスニーカーを脱がせ、靴下も脱がせる。捻挫したという足首は、少し腫れていて赤かった。


「…ちょっと腫れてるな。痛むか?」
「……それなりに」


フィルムを剥がさないまま湿布を患部に当ててみて大きさを確認した後、救急箱に入っていたハサミを使って湿布を手頃な大きさに切り取る。

後は空気が入らないように、患部からズレないように注意して湿布を貼る。感触が冷たかったのか、彼が小さく声をあげた。


「これでよし。…テーピングも出来るけど、一応やっとくか?」
「……手慣れてんな」
「あぁ、昔よくやってたからな」


武術道場という家に生まれた為、実家にいた頃は鍛錬の毎日だった。兄弟たちとの、門下生たちとの組み手の中、誰かがちょっとした怪我をするのもそう珍しい事ではなくて。

そう言った理由で、こういった応急処置には手慣れている。そう説明すると、彼は緩く瞬いて訊き返してきた。


「…道場?」
「田舎のだけどね。それなりに大きい道場だったよ」
「過去系?」
「いや、今もあるよ。今は兄が継いでる」


そういえば、ここ暫く実家には帰ってないな。

体が鈍らない程度には自主トレしてはいるけれど、帰ったら現役の兄さんにボコボコに鍛え直されそうだ。この間は末の妹に、容赦なく簡単に投げ飛ばされてしまったし。…いや、元々桐は兄弟たちの中で一番強いのだけど。

テーピングをするついでに、雑談として少年に家の話を軽く話して聞かせる。


「軽く投げ飛ばすって……どんな妹だよ」
「小さくて可愛い可愛い妹なんだけどね……。代々うちの道場は、実は女の方が男より強いんだ」


可愛い可愛い妹、の辺りで彼が「シスコン乙」とでも言いたげな表情をしていたが、概ね普通の様子で俺の話に付き合ってくれた。


「さっき、俺が殴ろうとしたのも軽々受け止めたよな」
「あぁ、あれくらいはね」


先程の拳を思い出してクスッと笑うと、彼は少しむっつりとした顔をした。


≪  ≫

4/39ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!