[携帯モード] [URL送信]

アットホーム・ラブライフ
毒林檎を握り潰したら

「桐〜っ、ごめん遅くなった! 悪い、道が異様に混んでてさぁ〜」


多少の不安は残るものの一応は纏まった話に安心してお茶を飲んでいると、突然賑やかな足音と共にばたんっとドアが開かれ、一人の男性が飛び込んできた。

ルームメイトとなった更科さん…と呼ぶべきか桐さんと呼ぶべきか、とりあえず彼女が、部屋に転がり込んできた男性を振り返る。


「…遅かったね、藤(ふじ)兄。もう話は纏まってしまったよ」
「んぁ? 纏まったって…どうなったんだ? 桐は結局アパートに入れるのか?」


優雅にミルクティーを飲みながらそう言う彼女に、男性は緩く首を傾げる。

話の流れから察するに、彼は彼女の保護者であるらしい。…まぁ、せいぜい中学生くらいの女の子が、一人でこんな場に出て来るなんてちょっとおかしいからな。保護者は遅刻していた訳か。

ドアを入った所できょとんとする彼も、結構若いみたいだけど。今年で20歳になる俺と同年代くらいだろうか。


「…あぁ、どちらも入居出来ないと困る事情だからね、どちらも入居するという事で話は決まったよ」
「…は?」
「ルームシェアをする、という事だよ。幸い広い部屋だからね」
「え……えぇぇぇぇぇ!?」


コーヒーを飲みながら成り行きを見守っていた俺は、彼の絶叫にあちゃーと顔をしかめる。

…そうだよな、普通はその反応だよな。彼女自身が気にしなくても、男のルームメイトなんて保護者は気にするだろう。

一難去ってまた一難。また面倒な話合いになりそうだと、俺はカップを置いた。


「ちょ…待ちなさい桐、ルームシェア…って相手は対面に座ってる彼だろ? 男じゃないか!」
「そうだね」
「何処の馬の骨とも知れない男と二人暮らしだなんて、兄ちゃんは許さないからなっ!」


ビシッと人差し指を突き付けられ、俺はあー、と思いながらなるべく人好きのする笑顔を浮かべた。

まぁ、彼の気持ちは分かるけど、…せっかく纏まりかけた話だったからなぁ…。


「…あの…」
「…藤兄、約束を忘れたのかい?」


俺の言葉を遮って、彼…会話から彼女のお兄さんらしい人に言ったのは、桐さん。

椅子から立ち上がた彼女は、幼くも可愛らしい顔を歪めて兄を見た。

妹に睨み付けられた兄は、先ほど指を突きつけた勢いは何処へいったのか、分かりやすい程に怯む。

…この兄妹の力関係が見えた気がする。


「私が大学に入ったら家を出て、兄さんたちには頼らずに、社会経験の為にも知らない人とルームシェアを始める。そして私が決めた事について、兄さんたちは反対しないと決めた筈ではないか」
「…いやっ、それは…」


淀みない口調で詰め寄る妹に対し、兄は完全にしどろもどろ。

……ていうか、大学入ったらとか言った? …もしかして桐さん、実は俺とそんなに変わらない歳か!?

こっそり驚く俺を余所に、兄妹の会話は続く。


「…っ、でも…相手が男だなんて……。…多分みんなも予想してなかったと思うぞ…」
「まぁ、私もルームメイトが男性になるとは思ってはいなかったが。…別にいいんじゃないかな。彼は良い人そうだと、“私”が思ったんだ」


な、とそこで彼女は初めて俺を振り向く。

やり取りを傍観していた俺は、せめて彼女の信頼を裏切らないようにと自分の持つ最大級の笑みをお兄さんに向けてやった。


「神坂稜也です。これで自己管理や家事全般には自信がある方です。よろしくお願いします。…誓って、邪まな事はしませんから」
「……………」


じーっと、品定めするような視線がちょっと気まずい。

桐さんと同じチョコレート色の瞳が此方を見つめるのを、けれど目を逸らしちゃいけないと見つめ返す。


「……っち、桐にヘタな事しやがったら、兄弟全員でお礼参りに行かせてもらうからなっ!」
「…あっ、はぁ…」
「藤兄!」


ビシリと再び突き付けられた指に、飛ぶのは彼女の声。

呆れたようにやれやれと肩をすくめた桐さんは、扉の側に立つ兄の前へ歩み寄る。


「…藤兄は、“私”がそう簡単にと狼藉されると思っているのかい?」
「…え、あー…」
「そんな心配は、私から一本でも取れるようになってからにしてもらいたい……ねっ!」
「――!!?」


言いながら兄に手を伸ばした彼女は……いきなり兄を背負い投げた。

小柄な躰に見合わない、実に華麗でそれでいて重そうな一本だった。

…急展開に、そろそろ付いていけない。

兄を投げ飛ばした桐さんは、俺を振り返ってにこりと笑う。


「神坂君、更科家は古い道場を守ってきた家なんだ」
「は、はぁ……」
「私も入れて、直系の兄弟は六人。…実家は長兄が継いでいるけれど…」
「…兄弟の中で、桐に敵うやつはいないぜ……覚えとけ……ぐふ」


妹に投げ飛ばされた兄が、続いた言葉を引き告いで…再び床に倒れた。

……、なるほど、彼女が男の同室者を軽く認めた理由の一つは、自分の腕っ節に絶対の自信があるから…か…。


「ははは…」


その時の俺は展開に付いて行けずに、ただ笑うくらいしか出来なかった。



毒林檎を握り潰したら

(天下無敵の箱入りお姫様)














--------------------
ハジメマシテの10分後くらいの1コマ。少ない文字数に色々詰めたら、稜也が空気になってしまった…(^^;) とりあえず腕っ節最強なろり巨乳美味しいww

藤兄は二番目の兄。稜也は同年代くらいと見ていますが、実際は28歳の一端の社会人です(笑) 兄弟では一番の常識人。でも妹に弱いww


11/7/5


1/1ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!