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アットホーム・ラブライフ
2

警戒するような険しい視線を俺に向けていた少年は、ひとまず俺の説明に納得したのか、俺が手のひらで受け止めていた拳を引いた。


「…で、君はどうしてこんな所に? 怪我してる……って事は、もしかしてヤバい事に巻き込まれたとか?」


もし事件とかなら、警察に通報した方がいいんだろうか。

ポケットから携帯電話を取り出した俺を、少年は険しい表情をして押し止める。


「…別に、ただの喧嘩だ」
「それも言いようによっては、暴行だよね?」
「……、俺もやり返したし。とにかく、ケーサツとかは呼ぶんじゃねえよ」
「…分かった」


ブスッとした様子で言う少年に、俺はとりあえず携帯電話をしまった。

喧嘩とか言って路地裏に倒れている事を見ると、彼は所謂不良少年なのかもしれない。もし一方的な暴力を受けていたのならばいじめだが、先程俺に向けた拳の鋭さを考えると、やり返すだけの力も持っていそうだ。

そんな推定不良少年な彼だが、俺とはきちんと会話が成立しているし、誰にでも喧嘩を売るようなチンピラDQNでもないらしい。


「まぁ、事件じゃないならいいけど、こんな時間に制服の学生が一人で歩いてたらどっちみち補導されちゃうぞ」
「……、アンタだって制服着てないだけで学生じゃねえの」
「……」


素直に話を聞いてくれる少年に、軽く肩を叩いてそう諭せば、胡散臭そうな瞳と共にそんな失礼な発言が繰り出される。

社会に出て早5年以上。童顔で己がせいぜい大学生くらいにしか見られない事は最早馴れきった事態ではあるが、推定高校生(体格も良いようだし、高校生くらいだろう)に同年代認識されるのはそれなりにダメージを受けた。余裕で10歳サバが読めてしまう。

俺は一つため息を吐くと、少年に言い聞かせるようにゆっくりと言った。


「……こー見えても、社会に出てそれなりに経ってる28歳だ。最近は流石に補導はされねえよ」
「…………」


少年が、驚愕の目でもって俺を見る。28に見えないのは自分でも自覚しているが、その反応は酷くないか?

まぁ、こんな視線を受けるのはしょっちゅうなので曖昧に笑って受け流すと、少年に合わせてしゃがんでいたところを立ち上がった。


「よっこいしょ…っと」
「……」


思わず漏れた声に、「…あっ、ホントだった」と雄弁に語る瞳。おっさん臭かったかい、ごめんね。でも流石にまだおっさんではないつもりだよ、お兄さんは。

などと内心で思いつつ、未だ店の外壁に寄りかかっている少年に手を差し伸べた。


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