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アットホーム・ラブライフ
春の夜

元より数の少ないバイト従業員をすっかり返してしまった、月曜日の午後十時過ぎ。

明日の火曜日は我が店、喫茶店『レコード』の定休日である。

週に一度の定休日、明日はどうするかなぁ、なんて考えながらゴミを出してしまおうと店の裏口を開ける。


「…ん?」


店のすぐ裏にあるゴミ捨て場に横着してポイポイとゴミ袋を投げていると、ふと裏口のドアのすぐ横に見慣れない黒い塊があるのに気付いて振り返る。


「えっ?」


黒い塊、そこに居たのは黒い学ラン姿の少年だった。

…いや、ただ居ただけならば別にいいし、俺もそんなに驚かない。問題は、彼が店の壁にもたれるように座り込み、ぐったりとしたように力を抜いて目を閉じている事だ。


「えっ、あ、ちょ…?」


え、何、寝てるのか? それとも何か病気とか怪我とかでぐったりしてる? 何にせよ、未成年だろう少年が制服姿でこんな場所にいたらヤバくないか?

……、普通だったら、絡まれるのやだなー、とかいう理由で声をかけるのを躊躇ったりもするかもしれない。が、俺は実家の都合でそれなりに腕に覚えのある社会人なので、臆さずに少年に声をかけた。


「…おーい、こんな所でどうしたのー? 何か具合悪いの? それとも、ただ寝てるだけ?」
「……」


声を掛けてみても、応えはない。ぴくりとも表情も動かないから、寝ているか意識を失っていたりするんだろうか。ただ無視、っていうには反応が無さ過ぎる。


「おーい、あのー…?」


戸惑いながらも声をかけつつ、俺は少年の肩を揺すった。

見付けてしまった以上大人として放って帰る訳にはないので、ゆすゆすと彼の肩を揺すり続けていると、やっとゆっくりと少年の頭が動いた。


「あっ、気が付いた? ただ寝てるにしろ何かあったにしろ、こんな所で寝てるなんて危ない……おっと!」
「!」


気が付いたのならと少年に声を掛けている途中で、いきなり彼の腕が振りかぶられた。

起き抜けにしてはなかなかキレのある拳だったが、そこは道場生まれの矜持、しっかりと自分の手のひらで受け止めさせてもらう。

少年が顔を上げる。その顔を見、こめかみから半乾きの赤茶けた血が流れているのに気付いてハッとした。


「……怪我、してるのか?」
「……、アンタは?」


まだ若い、けれどなかなか整った顔立ちをしている少年は、渋い表情をして俺を見上げた。

座り込んだ彼に合わせて膝を付いていた俺は、先程自分が出て来た店の裏口を示して言う。


「そこの喫茶店の店員。そろそろ帰ろうと思って外に出たら、すぐそこで君が寝てた?、から声かけたんだけど……」
「……」


未だ彼の拳を受け止めた姿勢のまま、俺は出来るだけ穏やかに笑った。童顔気味だが顔はそんなに悪くないと思うので、嫌みのない笑顔が作れている筈だ。


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