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アットホーム・ラブライフ
前途多難なハジメマシテ

「…ふむ、つまりはキミも私も、この部屋に入居する契約をしていた……とそういう訳なのだね?」
「はぁ…、そうらしいね」


口元に手をやり、ふぅむ…と考え込むような仕草をしている彼女は、今言った通り、俺が借りた部屋を同じく借りた人間らしい。

どうやら不動産屋の手違いで、ほぼ同時期に二重に契約してしまっていたようだ。

俺たちの横では不動産屋がおろおろと無責任に顛末を見守っている。
…あんたらの手違いだろうに。まったく、こんな大人にはなりたくない。


「…カンザカくん、といったか?」
「あぁ、はい」


俺がため息を吐いたと同時、考え込んでいた彼女が顔を上げる。

…それにしたって、この子若い。せいぜい中学生くらいにしか見えないんだが、それで一人暮らしをするつもりだったんだろうか? あと、喋り方が何か変わってる。


「…今更此処に入居出来ない、と言われたところでキミも私も困るだろう?」
「まぁ…引っ越しの準備も済ませてあるし、困るね」


もっと早い段階で二重契約が分かっていれば対処のしようもあったんだが、それが発覚したのはまさに入居を控えた土壇場。

互いに準備は完了しているし、自分も譲れないが相手も譲れないというのが分かっているから話が膠着しているのだ。

俺が困りながら頭を掻くと、彼女は大きめなチョコレート色の瞳をじっと此方へ向けた。


「私もだよ。…此処で提案があるのだが、どうだろう、私とルームシェアをするという事で折り合いを付けないかい?」
「え?」


どちらも此処への入居を譲る事が出来ないから、どちらも入居する。それはまさに、折衷案ではあるのだけれど。


「え、えぇぇぇ…? …それ、いいの?」


…これが歳の近い同性だったら、この折衷案はアリな気もするけど。

思春期の女の子が、赤の他人な歳上の男と同居…っていうのはちょっと……なぁ?

と、俺が相手側を見て戸惑っているにも関わらず、当の彼女は涼しい顔で俺を見ている。


「元々広い部屋だし、入ったらルームメイトを募集するつもりでいたんだ。…その手間が省けたと思えば、気にならないよ」
「いやいやいや……、ちょっと待とうよ気にしようよ、俺男だよ?」
「そうだな、キミは女には見えないよ。安心したまえ」
「そりゃ良かった。…って、安心出来ないのは君でしょ?」


なんだ、この噛み合わない漫才みたいなやり取り。

ゆるりと首を傾げた彼女は不思議そうな表情をした後、あぁ、と声を上げる。


「あぁ、別に気にする事はないよ。私には兄が五人もいてね、昔から部屋に男性が居るのは気にならないよ」
「…いやうーん、それだけを言ってるんじゃなくてね…」


色々問題あるでしょ、倫理的にさ。

頬を掻く俺に物怖じせず、彼女は真っ直ぐな瞳を向けてくる。


「…キミなら大丈夫だと、私は感じたのだ」
「は?」
「私の期待を裏切るような真似は、キミはしない筈だ」
「…………」


お互い初対面で、相手の事なんて名前くらいしか知らないのに。何故か自信に満ち溢れた瞳で、彼女は俺を見上げる。

それは、一体何処から湧いてくる確信なのか。

…けれど何故か、彼女の期待に俺も悪い気はしなかった。


「…、後悔はしない?」
「する筈がないよ」


意思の強いチョコレート色の瞳が細められ、彼女はふっと笑う。

…それじゃあ、まぁ。


「よろしくお願いします、更科桐(さらしな きり)さん」
「此方こそだよ、神坂稜也(かんざか りょうや)くん」


握った手は、とても小さく…それでも力強かった。



前途多難なハジメマシテ

(それから、なんだかんだ楽しくやっています)












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稜也と桐ファーストコンタクト。現実にはかなり有り得ないシチュエーションだけど、創作はファンタジーだから仕方ない ←

…この後桐が自分より一つ歳下なだけだと知って、稜也は仰天しますw 後、桐のお兄ちゃんずに絡まれたり(笑)


11/7/1


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