アットホーム・ラブライフ
お兄さんは心配性
ピンポーン、と来客を知らせるチャイムが鳴る。
俺も桐も友人を此処へ呼んだ事はないから、この時間に家へ来るのはどちらかの家族から届いた荷物か、新聞などの集金か、よく分からん宗教のお誘いの類か。
…最後ではないといいなぁ、と思いながら俺は膝を浮かしかけた桐を制して玄関へ向かう。万一勧誘だったら危ないからな。……相手が。
あまりにもしつこい怪しいセールスの勧誘を、桐が拳で撃退したのは記憶に新しい。
内心苦笑いしながら、お客様用爽やかな笑顔を浮かべてドアを開ける。
「はーい」
「………」
ドアの外に立っていたのは、まだ若い、もの凄く渋い表情をした少年。
彼は小包も領収書も持っている様子はないし、セールスの人なら異様な程朗らかな笑みを浮かべている。
……誰だ?
「えーと、何のご用…」
「……お前か」
「は?」
「ウチの妹を誑かしたって野郎は、お前かぁぁぁ!!」
「うわっ!?」
ぼそりと何事か呟いたと思えば、次の瞬間には目の前に正拳突が飛んできて俺は慌てて後ろに飛び退いた。
口振りからして桐のお兄さんだろうけど…、いきなり拳はいくらなんでもないだろ!?
「稜也っ!? …桜兄!?」
異変を感じて玄関に出てきた桐は、尻餅を付いた俺と、まだ戦う気満々のお兄さん……桜さんを見て声をあげる。
「桐っ! …あぁぁ、やっぱり知らない男と一緒に住むなんて心配だ! 今からでも俺のトコ来ようよ!」
「その話については、家を出る前にもう決まっていたではないか。私は、社会経験の為にも兄さんたちとの同居はしない。藤兄だって、此処で稜也とルームシェアをするのを認めたんだ。…それに、桜兄の家は大学から遠いし」
…ぼそっと言った、最後の一言が一番の理由に感じたのは、俺の思い違いだろうか。
桐の大学は俺の大学の近くにある女子大だが、それぞれアパートから徒歩15分程度だからな。自転車なら5分弱。便利だよ確かに。
…確か末のお兄さんだった筈だ、桜さんは俺に向けた闘気は何処へやら、きっぱりと言い切った妹に消沈気味だ。
「…だって、せっかく同じ都内に住んでるのに、一緒じゃないなんて寂しいし…」
「都内には牡丹兄も住んでるけれど、桜兄とは別に住んでいるではないか。…とりあえず学生の間に、一人暮らしの経験を積んでおこうと」
「桐は一人じゃないじゃん、知らない男と一緒じゃん!」
駄々っ子のようにそう言って、ぶるぶると首を振る桜さん。
…なんだこれ、結局ただの我が儘なんじゃね?
妹の桐もそう感じたのか、ふーっと深くため息を吐いて首を振った。
「…だから、その話はもう完結しているのだ。今更桜兄が何を言おうと覆る事はない。……どうしてもと言うならば、私に実力で勝ってからにしてくれたまえ」
「うっ…」
兄弟の中では一番強い、っていう桐。次兄を軽々と投げ飛ばした彼女は、多分彼よりも小柄な末の兄を沈めるなんて雑作もないんだろう。
顔色を失って一歩引いた兄に、桐は呆れながら言葉を続ける。
「今更文句は言わないでくれたまえ。……まぁ、遊びにくるのは別に構わないのだから」
「! ホントっ? ホントに遊びに行っていい?」
「現に今日来ているではないか」
「…うんっ!」
…何と言うか…、どっちが兄なんだか。桜さんがワンコ的な何かに見えてきた俺は、いつまでも尻餅を付いている訳にもいかないだろうと腰を上げる。
「……じゃあお茶を淹れてくるよ、桐」
「あぁ、ありがとう」
更科兄妹用のお茶を淹れにキッチンに向かおうとした俺の腕を、桜さんはわしっと掴む。
「…でも俺は、まだお前を認めた訳じゃねえからなっ!」
「はぁ…」
お兄さんは心配性
(前途多難だ、こりゃ)
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末兄、桜登場。五男であるせいか、少し子供っぽいところのある兄。桐より寧ろ子供っぽいかも(笑) 大学三年生です。
…桐と兄ずが登場する話の、稜也の空気率は異常(爆) 波風立てない賢い子なんですが、語り部でツッコミ入れながら傍観してるだけって…ww ←
大丈夫、彼の本領は二人っきりの時です(キリッ ←←
11/9/16
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