アットホーム・ラブライフ
16
ビルとビルの隙間だなんて埃臭い所でくっつき合っていたから、俺も雄飛もどことなくじゃりじゃりと埃っぽい。
せっかくお洒落で似合っている雄飛の服の袖をぱたぱたと叩いて埃を飛ばしていると、雄飛がまた俺の背を引き寄せた。
「ちょっ、雄飛……」
「……嫌じゃねえんだろ?」
そりゃ、雄飛に抱き寄せられる事自体は嫌だとは思わないけれど。
ビルの隙間から抜け出して、比較的人通りは乏しいとはいえいつ誰が通りがかるとも知れない往来で男同士で抱き合っているのは、やっぱり世間的には拙いだろう。
「嫌じゃないけど、今は駄目だ」
「……」
不満げに唇を尖らせる雄飛の頬を軽く指でつついて、その腕の中を抜け出す。此処が屋外なのは雄飛も分かっているからか、案外抵抗はなくするりと抜け出せた。
躰を離して、少し埃っぽくなった雄飛の襟足に触れる。
「ちょっと埃っぽくなっちゃったな。買い物は終わったし、もう戻るか?」
「……まだ早すぎるだろ」
まぁ、確かに時計的には帰る時間にはまだ早いけど。別に解散して家に帰ろう、と言っている訳じゃない。
「レコード(うち)ならシャワーも浴びれるし、買ったばっかりのカップで美味いコーヒーも淹れてやれるぞ?」
営業自体は休業日だから、雄飛の貸切だ。悪くはないだろ?
そう提案すると、雄飛は瞳を丸くした。ほんのりと頬を朱に染め、自分の唇を舌で舐め湿らせて声を出す。
「……んだよ、誘ってるのかよ」
「へ?」
いや、確かにうちの店に来ないか、って誘ってる訳だけど、どことなく湿った雄飛の声は、そういう健全な意味での『誘ってる』ではないような……、って!
「そ、そんな訳ないだろ、高校生!!」
馬鹿! 変態!! これだから思春期は!!
シャワー浴びるって、そういう意味じゃないから! ただ埃っぽくなったから流したいだけだから!
自分の何気ない言葉をそんな風に深読みされて、俺は一度は落ち着いた熱を一気に顔に上らせた。
「犯罪、ダメ、絶対」
「藤は大人しくしてればいい。俺が全部やってやるから」
「そういう問題じゃないっつーの!!」
くそっ、年下の癖に何でそんな自信満々に言うんだ! 生意気だぞ、高校生。何だよ、そんなに経験豊富なのか!?
またもぐだぐだになりそうな話の流れだったが、角を曲がって通行人がやって来た事で何とかクールダウンする。やばい、こんな往来で話すような内容じゃなかった。
「……とにかく、そういうのはナシです」
「…チッ」
「舌打ちしない! ……とりあえず、戻ろうぜ」
悔しそうな雄飛を連れて、通い慣れた店までの道のりを歩く。
ああ俺、いつまで貞操守れるのかな……。こうは言ってるけど、本気で雄飛を拒み切れる自信は、ない。
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